台湾自身が、かがり火である。かつて、我々の民主的移行は我々自身の前途を照らし、今も、香港、中国大陸、そして世界中で民主主義を熱望する人々へのかがり火であり続けている。
我々の国は、2300万人の台湾人のものだ。我々の国は、次の世代に、今の姿のまま手渡されなければならない。
参考:蔡英文,‘President Tsai delivers 2018 National Day Address’(Office of the Republic of China(Taiwan), October 10, 2018)
https://english.president.gov.tw/NEWS/5548
最近の世論調査によれば、全体として蔡英文の人気は低迷している。そして、11月下旬には統一地方選挙が予定されており、その選挙は蔡・民進党政権の今後を占うものとして重視されている。そのような状況下での蔡のスピーチについては、これまで特に、中国との関係において基本的に慎重な立場をとってきた蔡が、その立場を変えるかどうか注目されるところであった。
この点、蔡英文が最近の米中関係の動きや11月の地方選挙を控えて、これまでの、「不明確で曖昧な路線への決別」を宣言し、その立場を鮮明なものにした、と見ることができよう。特に、10月4日のペンス副大統領の対中国政策演説の内容が蔡のスピーチに影響を与えたものと思われる。上記要約では割愛したが、ペンス演説については名指しで触れている。
ペンス演説は、台湾については2か所において言及しているが、いずれも米国が台湾の民主主義を支持し、台湾の地位を強く擁護することを強調している。
中国の共産党独裁と台湾の民主主義との違いについては、蔡英文もこれまで言及することはあったが、今回のスピーチのように、「台湾自身が香港や中国において民主主義を追求している同志たちの前途を照らすかがり火となるだろう」といった表現ははじめてのことである。この表現は中国から見ると、到底容認しがたいものだろう。
過去2年半を振り返ってみれば、台湾独立でも統一でもない「現状維持」を標榜した蔡英文であったが、中国側のきわめて厳しい対台湾政策により、中台間の公的なチャネルは断絶したままである。他方、台湾内部では蔡の対中国政策は「軟弱」であるという独立派の意見も強い。
蔡としては、「現状維持」の大枠は維持しつつも、台湾における「民主主義」を強調することにより、米、日、欧との連帯を強める方向に舵を切ったということだろう。
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