2024年11月23日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年11月5日

Qアノンの役割

 第3の理由は、昨年10月28日からネット上で陰謀論を展開している匿名の謎の人物「Qアノン」の役割です。Qアノンはトランプ大統領に対する不都合な事実を陰謀や策略とみなし、同大統領を守る役割を果たしています。

「我々はQだ」の看板のあるテントに集まるQアノンのフォロアーたち(筆者撮影@アリゾナ州メサ)

 率直に言ってしまえば、Qアノンはトランプ大統領のプロパガンダです。11月6日(現地時間)の米中間選挙では、熱意の面で民主党支持者が共和党支持者を上回っているといわれています。その勢いを民主党のシンボルカラーである青色を使って「ブルーウエーブ(青の波)」と呼び、専門家は選挙でその波が押し寄せると予想しています。

 ところが、Qアノンはフォロアーに向かって、「ブルーウエーブを信じるな。レッドウエーブ(赤い波)を信じろ」と投稿しています。ちなみに、赤色は共和党のシンボルカラーです。
トランプ大統領はQアノンと歩調を合わせたかのように、選挙応援集会で「ブルーウエーブは消滅した」と強調しています。

 トランプ集会には、「Q」の文字が印刷されたTシャツを着用したQアノンのフォロアーが参加しています。モンタナ州及びアリゾナ州で彼らを対象にヒアリング調査を行いましたが、Qアノンに対して狂信的で、「岩盤の中の岩盤」という印象を強く持ちました。

Qアノンのフォロアー(筆者撮影@モンタナ州ミズ―ラ)

岩盤支持層の作り方

 では、トランプ大統領はどのようにして強固で崩しがたい岩盤支持層を作ったのでしょうか。岩盤支持層の形成過程を説明しましょう(図表)。簡単に言ってしまえば、「掘り起こす」「火をつける」「固める」の3つのプロセスから構成されています。

 まず、16年米大統領選挙の共和党候補予備選挙でトランプ大統領は、ワシントンのエスタブリッシュメント(既存の支配層)から無視されてきた有権者の掘り起こしに成功しました。その中には、モンタナ州ミズ―ラでの選挙応援集会に駆け付けた金属加工に携わるトムさん(43)のような白人労働者がいます。彼らはトランプ大統領が白人労働者の気持ちを理解し、彼らのために働いていると信じています。

自転車にトランプ支持の旗を掲げる支持者(筆者撮影@モンタナ州ミズ―ラ)

 次に、トランプ大統領は支持者の気持ちに火をつけ、熱意を高めます。その際、「白人労働者対不法移民」という対立構図を作り、白人労働者に対する敵対勢力を明確化し、対立を煽ります。「不法移民が白人労働者の職を奪った」とし、その問題解決を図るために、米国とメキシコとの国境における壁の建設と製造業の復活を公約に掲げました。

 そのうえで、支持者を固める作業に入ります。これが岩盤支持層形成の最終プロセスです。

 同大統領は支持者が敏感に反応する争点を選択します。今回の中間選挙で、トランプ大統領は16年の大統領選挙と同様、彼らの心に最も響く不法移民問題を争点化しました。それが、中米諸国から徒歩で米国とメキシコの国境を目指して北上している移民集団の問題です。移民集団の中に犯罪者が含まれており、彼らが米国に流入すれば、支持者の生活や生命が危機に直面すると警告を繰り返し発しています。

金属加工会社で働く白人労働者のトムさん(筆者撮影@モンタナ州ミズ―ラ)

 加えて、トランプ大統領が最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏を利用しています。カバノー氏は、無実であるにもかかわらず、性的暴行疑惑をかけられ、「民主党からひどい目にあった」と支持者に訴えています。

 つまり、トランプ大統領は恐怖心、不安及び怒りといった心理的要因を用いて、支持者を岩盤にしているのです。

銃の所持に賛成するトランプ支持者の女性(筆者撮影@モンタナ州ミズ―ラ)

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