料亭の雰囲気を知って欲しい
昭和24年、ついに戦前と同じような壮麗な店舗を新築。料亭として蘇った。
哲夫さんは店主となってから、重大な決断を下した。ランチの提供である。
「『高くて入れない』『一生に一度は行きたいけど』といった声をよく聞きました。そういう方々に料亭の雰囲気を知っていただければと、平成3年(1991)から昼の営業を開始したんです。とはいっても昼と夜とでは座布団や箸を変えるなど、メリハリをつけています」
昼のメニューは3つ。親子丼、たつた揚げ、から揚げだ。一番人気はかま定食と名付けた親子丼で、挽肉を卵で閉じている。
「夜の鍋用のつくねを使っています。千葉の地養鳥、茨城・奥久慈の軍鶏(しゃも)、埼玉・幸手(さって)の合鴨の3種の鳥の肉を混ぜています」
と誇らしげに語る。その後、耐震のため本店をビルに建て替えるなど大きな改革を遂げてきた哲夫さん。今は息子の敬一郎さんに厨房を任せ、代替わりを考えている。
三島が最後に食べた「わ」の鍋を賞味した。7種類の肉が3回に分けて煮られる。最初はもも、砂肝、挽肉。続いてむね、レバー、挽肉、合鴨。最後にもも、はつ、挽肉。スープの味を壊さぬように、他には葱、椎茸、豆腐、蒟蒻が入るだけだ。肉を大根おろしと生醤油につけていただく。滋味が口中に広がる。鳥肉ってこんなにおいしかったんだなあと、箸が止まらない。初めてなのに、なぜか懐かしいという感覚がわいてきた。
三島は最後の晩餐を、家族との思い出を振り返りながら噛みしめたのではないか。
●末げん
<所在地>東京都港区新橋2−15−7
(山手線・京浜東北線・東京メトロ銀座線新橋駅から徒歩約3分)
<営業時間>11時30分~13時30分、17時~22時(LO20時30分)
<定休日>日曜・祝日。月に1回程度、土曜に不定休
<問い合わせ先>☎03−3591−6214
写真・伊藤千晴
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