大阪・南船場(せんば)のうどん屋「うさみ亭マツバヤ」は、昼夜通し営業の店だ。さすがに16時になると客足も途絶えるので、私たちはレジのそばで撮影を開始した。
そんな折に来店した女性が私たちに、「やっぱり、きつねうどんの取材ですか? 私もね、ここがそうやと聞いて、初めて来てみたんよ。一度は食べてみたいと思ってたから」と声をかけてきた。
その会話を聞き、3代目店主の宇佐美芳宏さん、洋子さん夫妻が微笑む。きつねうどんは、同店の初代・宇佐美要太郎氏の手によって世に出たのだ。
芳宏さんが「これは親父(2代目・辰一氏)から聞いた話ですけど」と前置きして、説明をしてくれた。
「ここから歩いて十分ちょっとのところに、『たこ竹』という鮨屋があります。お祖父さんはそこで働いておったそうです。昔は鮨だけでなく、うどん屋もやっていたいう話です。でも、うどんは廃業することにした。その機会にお祖父さんは独立して、うどん屋を始めることにしたんです。『たこ竹』のご主人には『新しいうどんを作ってみたらどうや』と言われて、稲荷寿司をヒントに作ったんやそうです。うどんにも、お揚げを使った料理があってもいいんやないか、と」
明治26年(1893)に「松葉家」の名で開業。かけうどんと別皿で、油揚げと魚のすり身の天麩羅を出してみた。すると客が、具を丼の中に入れて食べた。それを見て、一緒に入れるようになったという。