2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年12月13日

 11月24日に実施された台湾の統一地方選挙では、蔡英文総統率いる民進党が大敗し、蔡英文が党主席を辞任する事態となった。

(BongkarnThanyakij/RichieChan/K-King Photography Media Co. Ltd/iStock)

 今回の統一地方選挙では、全国で22の県長・市長のポストが争われたが、民進党が現有13から6に減らし、他方、2014年の前回選挙で惨敗した国民党は現有6から15に増やした。台北市長は、無所属現職の柯文哲が僅差で勝利した。この結果は、大方の予想を上回る政治的激変であったといえる。とりわけ、民進党の牙城である高雄の市長ポストを国民党の韓国兪に奪われたことは、衝撃的であった。韓国兪は当初、泡沫候補扱いであったが、強烈な旋風を巻き起こした。

 民進党大敗の最大の原因が蔡英文の不人気であることは間違いない。台湾のマクロ経済のパフォーマンスはそれほど悪くはないが、公務員の年金改革や労働基準法の改革、脱原子力発電など、多くの困難を伴う課題に手を付け、それらへの八方美人的ともいえる慎重な姿勢が、かえって優柔不断との批判を呼んだ。

 蔡英文は、対中姿勢でも、民進党内の急進派の意向に反して、「独立」指向の政治姿勢を封印し、独立でも統一でもない「現状維持」の路線を維持した。しかし、習近平政権との対話については、中国側の妨害に会い、対話チャネルは閉ざされたままである。蔡政権になってから台湾承認国のうち5か国が中国側に寝返った。蔡英文の対中政策は、明確な独立を目指す急進派にとっても、「一つの中国」を是とする国民党にとっても大きな不満の種となっている。

 今回の選挙結果で、蔡英文の求心力は一段と低下したが、他方、国民党側も総統候補となれるような人物は現れていない。次期総統選に向けて民進党がいかに体制を立て直していくのか、国民党がだれを候補に絞っていくのか、双方にとっての喫緊の課題である。

 もう一つの大きな注目点は、今回の選挙に、中国がいかなる介入・干渉をおこなったかである。明白な証拠はないが、中国が手をこまねいて傍観していたとは考えにくい。同じ言語を使う台湾に対しては、中国はフェイクニュースを仕掛けやすいとの指摘もある。特に、中国との貿易、投資に関係する台湾企業への硬軟両様の圧力や若者たちへの各種プロパガンダ等の手法が使用されたことは疑いの余地がない。


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