元上院議員らによる意見書
アメリカ国民の間で、連邦議会と大統領に対する不信は強くなっている。
2018年にギャラップ社が行った各種機構に対する信頼度合いに関する調査によると、連邦議会を信頼している人は国民の11%に過ぎず、調査対象となった物の中でその信頼度は最低である(信頼度の高い順に、軍隊、小規模ビジネス、警察、高等教育機関、教会、大統領、連邦最高裁判所、医療システム、銀行、公立学校、労働組合、大企業、新聞、刑事司法、ニュースメディア、連邦議会となっている)。連邦議会に対する不信は今に始まったものではないものの、近年では二大政党の分極化傾向が強まるとともに、党派対立が激化しているため、議会の機能不全が以前にも増して指摘されるようになっている。国民から選出された議員によって政策決定を行うことを民主政治の基礎だと考えるならば、アメリカの民主政治が機能不全に陥っているのではないかとの懸念が示されるようになっているのである。
この懸念はかつて上院議員を務めた人々によっても示されている。12月10日、ワシントンポスト紙で「我々はかつて上院議員だった。上院は長らく民主主義を守ってきた。そして、今も守り続けなければいけない」と題する記事が発表され、注目を集めた。この意見書に名を連ねたのは、44名に及ぶ超党派から成る元上院議員である。アメリカが現在危機的状況にあるという認識の下、法の支配、合衆国憲法、統治機構や国家安全保障に対する深刻な挑戦に抗するために声を上げる義務があるとの思いからこの意見書を提出したと宣言されている。これら元上院議員は、時に対立関係に立ちはしたものの、アメリカの国益と民主主義を守るという共通の価値観を持っていたと強調している。アメリカで立憲上の危機が訪れて国家の基礎が脅かされた時、連邦議会上院がアメリカの民主主義を守ってきた。アメリカ史の決定的転機にある今、上院が再び団結してアメリカの民主主義を守らなければならないというのがそのメッセージであった。
元上院議員がこのような意見書を出さねばならないと考えた背景には、アメリカの政治社会の分極化と対立激化に加えて、アメリカの民主政治を支えてきた根本原則に対する信頼の揺らぎ、アメリカ社会全体の統一性・一体感の欠如とでもいうべき状況があるだろう。これらの問題は、ジョージ・W・ブッシュ政権期、バラク・オバマ政権期からみられていたが、現在のドナルド・トランプ政権になって以降、より深刻化している。
党派的な大統領という特徴が強いトランプ
大統領に対する不信も、今後さらに強まる可能性がある。
先程紹介したギャラップ社による信頼度調査によれば、大統領に対する信頼度は37%と、連邦議会と比べると高いとはいえ低い。特筆に値するのは、トランプ大統領に対する支持率も分極化していることである。12月10日から16日にかけて行われたギャラップ社の調査によると、トランプ大統領に対する支持率は全体としては38%である。共和党支持者の間では86%と高いのに対し、民主党支持者の間では7%と極端に低い。現在、2016年大統領選挙におけるロシアの干渉疑惑についての調査がロバート・モラー特別検察官によって行われているが、この件をめぐって更なる事実関係が明らかになり、弾劾への動きがみられるようになると、大統領の正統性はさらに低下するだろう。
伝統的に、アメリカの大統領は国家の元首として、尊厳的な役割を果たすことも期待されてきた。また、連邦議会にみられる党派対立を乗り越えて、アメリカ国民を統合する存在ともしばしば位置付けられてきた。だが、トランプ大統領は尊厳的な役割を果たすことはできていない。また、全国民の大統領というよりも、党派的な大統領という特徴が強くなっている。この事態がさらに国民の間での政治不信を強化しているといえよう。