障害者の可能性を拒むもの
――障害の特性を理解したうえでこうした問題が起きないよう職場の管理体制が問われますね。
中央省庁は障害者雇用の水増し問題を受け、来年度は約4000人の雇用を目標にしたいというニュースもありました。
天宮:個人的な意見ですが、その業務に障がいの特性が適しているか、また、できる能力があるのか、ないのか、その見極めもせず、ただの人数合わせで採用されてしまったら、仕事もできず、その人の居場所すらなくなってしまうじゃないですか。
雇用すると報じられている数字は、様々な障害者がいることを理解した上で示されている数字なのか疑問です。
本当に障がいのある方のことを理解し、人材として活用するには専門家が必要になります。知識のない現場の人たちに「自分の仕事をしながら、この人たちのトレーニングもお願い」なんて頼まれても、現場の仕事は回っていきませんよね。
現場でも理解しやすく管理しやすいという点では、障がいをある程度選別し知識を持った人を配置していくべきかもしれません。
作業所管理部長 賀部拓也(以下、賀部):問題点ということでは様々あるのですが、在学中は自分で出来ていたことが、卒業後に退行してできなくなってしまうケースがあります。学校は「教育」する場なので自分でできることは自分でするようある程度厳しく指導を受けますが、ある福祉作業所では、本人に注意をしない(意思を尊重する)という考えがあって、本人が嫌だと言ったり、嫌がるような場合はやらなくてもいいよと言って休ませるところもあります。
無理強いは虐待にあたってしまうという事も理由の一つですが、やはり、ある程度は自分でやらなければできなくなってしまいます。
「この人にはこういった特性があるのだから、こうしたことができます」というアドバイスもせず、ここにいるだけでいいというように、ただ預かるという考えではなく、できるうちに、できることをやっておいた方がいいと思っています。一日ひとつずつできるようになっていく。それを積み重ねていくことが大切です。
今出来ないからやらせないというのは決して本人の為ではないと考えています。
天宮:少しでも本人の意に沿わないことはさせない、というのはそういう時代背景だからです。それぞれの事業所の考え方なので、それに良し悪しはありませんが、やらなくて済むようにしてしまうとできなくなってしまうケースが多いと考えられますので、IONではそれが本人にとって必要なことなのかを考えます。必要であれば親御さんと話し合い、信頼関係を作り、方針に賛同していただければ教育的サービスとして取り組んでいきます。
大切なことは本人のためになるかどうかです。
実質2~3年で雇い止め?障害者の就労、さらなる壁
賀部:障がい者の雇用率が高まったことによって就職できる人数が増えたことは喜ぶべきことですが、障がい者を雇用すると事業主に助成金が支給されるのですが、それが知的障がいでは2年、精神障がいでは3年と定められていて、その期間が過ぎた場合にそれまで雇用されていた障がい者が引き続き雇用されていくのか、新たな雇用獲得に動くのか、その際、雇用契約を更新できなかった障がい者はどこにいけばよいのか……。
その企業がどういった選択をするのかわかりませんが、2年後にそういった悩みを持った人が多くなるであろうことはある程度想像が出来ます。
天宮:就職して仕事を覚えて企業のプラスになっていればメリットもあるのですが、それがなければ企業サイドにメリットがなくなりますから、新しい人を雇って助成金を受けるほうがいいと判断されてしまいますし、実際にそうしたケースはあります。
――それではまるで2年で雇用契約を打ち切りなさいと促しているようなもの。
天宮:長く雇用する企業に対して助成しますという方がインセンティブになるはずです。現在の制度では2年で雇用を見直し、新しい人に入れ替えるよう促しているように思えますね。
先ほどお話に出たような退行してしまった場合の再雇用は望めそうもありませんね。