――こうした問題点を踏まえIONではどのような就労支援サービスを行っているのでしょうか。
賀部:わたしたちの事業所は就労移行支援と就労継続支援B型の2つの事業を一体的に行う、多機能型事業所といわれるものです。
就労移行支援というのは期限付きで、現在は年限2年とされているのですが、その間に一般企業へ就職するためのスキルアップを目指してトレーニングをする場です。工賃を支給しなくても法的に問題がありません。IONではパソコントレーニング・面接練習・履歴書の書き方なども指導しています。
これは利用者さんたちから利用料(授業料)は徴収することはなく、在住地域の区市町村からの給付金で行っています。
就労継続支援B型というのは、現時点では一般企業での就労が難しい人たちが働いて工賃をいただいて、生活費を稼ぐというものです。
ですが、東京都には最低工賃というものがあって3,000円。平均工賃で15,751円(東京都29年度月平均)となっています。どちらも「月」の金額です。
障害年金という収入があっても月に3,000円ではあまりに安過ぎます。時給1,000円の時代にそれでは暮らしていけません。
そこで工賃の向上を目指して、彼らの強みである同じことをコツコツ丁寧にやり続けられるという特性を生かせるものはないか、それが我々の課題でした。
グレーチング(溝蓋)を施工し環境改善に取り組む技術を習得
賀部:ご縁があって鳥取県の㈱クエストさんから、金属製のグレーチング(溝蓋)の格子に乾燥砂利を埋め込んで特殊な接着剤で固めるというお仕事をいただきました。
パブリックブリッジという商品名で、用途は側溝にゴミや落ち葉が落ちるのを防いだり、車椅子やべビーカーのタイヤが挟まるのを防いだり、夏場に蚊などが上がってくることを防いだり、雨の日の滑り止めとしても効果が高いものです。
金属製の格子に小さな石を詰めるのですが、透水性が高いので雨水が溜まることもなく側溝としての役割を妨げることはありません。
――先ほどその作業を見せていただいたのですが、どういった点が特性にあうのでしょうか。
賀部:磨き作業といって石を入れ込むマスを一つ一つ細かく磨いていくのですが、乾いた状態で埃などの付着物を落とす為に1度磨き、油膜を落とす為に2度目の磨きを行います。その細かくて地道な作業が彼らの特性にとても合っています。
一般の建築業に携わる職人さんに依頼するよりも、作業所では安価にできますし、彼らの特性から一定のクオリティを保ちながら続けられるこの仕事はぴったりなのです。
実際に建築関係の会社が作ったものと比べていただいたことがあるのですが、IONの利用者さんが作ったものはA級品と評価され、建築業の方たちよりも高い評価をいただきました。
この作業は彼らの特性を最大限生かせるうえに大きな収入源となるはずですので、こうした仕事を取ってきたいと思っています。できればお役所など公的な機関から受注できればと思って、それを目標にしているところです。
近年障がい者に対しての理解は進んできていると感じているのですが、月に3,000円しかもらえない人たちもいる現実やB型作業所の内情、障がいがあっても健常の方同様か、それ以上のスキルをもっている方もいるという事を知ってほしいと思っています。
前述した作業は一例ですが、このような作業実績が増えれば人材としての知的障がい者の可能性が大きく広がっていくはずです。
――天宮代表理事、賀部部長、お忙しい中ありがとうございました。
https://ion-aion.org/
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