シリアの米軍の第二の役割はイランの影響力の拡大阻止である。ボルトン安全保障担当補佐官は8月に「代理勢力と民兵を含むイラン軍がイランの国境の外側にいる限り、我々は撤退しない」と言った。イランの影響力拡大阻止にシリアの米軍が重要な役割を果たしていることを明らかにしている。
シリアの米軍の第三の役割は、シリアの和平協議を、米国や西側諸国の利益に反しない形で進めることである。米軍が撤退すれば、今後の和平協議はアサド政権を支援するロシアやイランが主導することが予想される。
その後12月23日にトランプはエルドアンと電話会談を行い、会談後ツイッターで、「エルドアンと有益な話し合いをした。ゆっくりした、よく調整された撤兵につき話した」と明らかにした。一方エルドアンは会談後、トルコと米国は二国間貿易などの他にシリア情勢につき協調を広げる、と述べた。
トランプ・エルドアン電話会談については、分からないことが多い。まずなぜエルドアンかであるが、報道によれば、12月14日エルドアンはトルコ軍がYPG撃退のためシリアに侵入するので、米軍に撤退するよう警告したとのことである。19日のトランプの撤退声明はこれを受けてのことであったことが想定される。
今回のシリアからの撤退には、トランプの問題点が凝縮されている。トランプ政権の要人と協議せず、一人で決めている。決定の戦略的意味を考慮していない。そしてすぐ変える。トランプはエルドアンとゆっくりした、よく調整された撤兵については話し合ったとのことであるが、ゆっくりとは具体的に何か、よく調整されたとは、誰と調整するのかなど、分からないことが多い。
一つだけ確かなのはシリアからの米兵の撤退は当初想定されていたような、直ぐの撤退ではなさそうだということである。そうだとすれば、米軍撤退のもたらす諸問題も先送りされることになる。しかし、撤退発表のもたらした弊害は消えない。YPGの司令官は、撤退の発表で米国の信頼性が失われたと述べた由であるが、一旦失われた信頼性は、撤退のスケジュールの延期でも戻らないだろう。
米軍のシリアからの撤退は、タイミングも含め不確定要素が多く、今後どう実施されるかを見極める必要がある。
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