中国が変える地政学
1月11日国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のエネルギー転換の地政学に関する委員会の報告書「新しい世界 エネルギー転換の地政学」(“A New World – The Geopolitics of the Energy Transformation”)が発表された。
報告書は、再エネによるエネルギー転換が地政学上重要な影響をもたらし、その結果、国家間の関係が再構築され経済と社会に構造的な変化が生じるとしている。化石燃料輸出国、中東諸国、ロシアなどは、再エネへの転換により難しい局面に向き合うことになる一方、再エネと非内燃機関輸送技術に大きな投資をし、市場を作り出した中国の企業が欧米企業に打ち勝ち、中国は勝者になるとされている。
現在欧州は化石燃料輸入量の多くをロシアに依存している(図‐4)。再エネ導入により化石燃料輸入依存度を下げるドイツ、中東依存度を下げることが可能な日本はエネルギー転換の結果勝者になるとされているが、化石燃料関連業界、自動車産業などでは混乱が生じ、失業が発生する可能性にも触れている。さらに、送電網が拡張されるなかでサイバー・セキュリティーなどの新しいリスクが登場する可能性もあると報告書は指摘している。
報告書は、困難はあるにせよ、気候変動、大気汚染問題に取り組み、持続可能な発展を目指すことにより世界は正しい方向に向かっていると結論付けているが、日本、ドイツなど化石燃料依存の先進国はエネルギー転換の結果、勝ち組になるのだろうか。
持続可能な発展と世代間負担の問題
ドイツ、日本はエネルギー転換により勝者になるとされているが、それはかなり先の話だ。エネルギー転換、再エネ導入は、化石燃料を温存し、温暖化対策を進めるため行われているが、その恩恵を受けるのは将来世代だ。
例えば、先進国では内燃機関自動車からEVなどへの転換が行われるとしても、途上国の自動車市場では2030年、40年頃でも内燃機関自動車が主体であり、依然として大量の石油が消費されると予想されている。先進国が再エネへの転換を行うことにより、石油などの化石燃料が途上国のため温存されることになる。
温暖化対策も将来の影響を軽減するため行われているが、私たちは温暖化による影響を正確に知ることはできない。国連機関ではシミュレーションにより温暖化の影響を測る試みが行われているが、結果には大きな幅がある。私たちの世代は、再エネ導入のため金銭面で負担を行っているが、その恩恵を将来世代がどの程度受けることになるのか、知ることはない。
私たちの負担額は、日本ではFITにより2018年度1kW時当たり2.9円、家庭用電気料金の10%を超えている。ドイツでは6.79ユーロセント(8.5円)にもなる。再エネ導入比率の高いデンマーク、ドイツの家庭用電気料金は日本の1.5倍に達している(図-5)。日本でもドイツでも再エネ導入支援制度の見直しが続いているが、一度導入された発電設備に対する負担は最長20年間継続する。
再エネ導入がエネルギー安全保障、温暖化対策に貢献するとしても、私たちの世代が負担する額が将来世代の恩恵と見合うものか、中国が覇権を握るなかで先進国ができることは何なのか、技術の発展を見ながらだが、継続的に考え政策の見直しを図ることが必要だ。
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