10年間勤めた卯辰山工芸工房を辞め、金沢市内にガラスデザインと制作を一貫して手掛ける工房「factory zoomer」を設立。迷える辻の道しるべになっためんちょこは、大ヒット商品になった。2010年から16年まで金沢で展開された「生活工芸プロジェクト」ではディレクターを務め、その実験店舗として地元の若手作家や全国のギャラリーや雑貨店が30日、90日と期間を定めて出店する「モノトヒト」も主導。二足どころか三足四足ものワラジを全力で履いた。当初はガラス作家、美術家、ギャラリーオーナー、ガラス制作工房主宰などさまざまな肩書を持っていたが、いまはシンプルに、ガラス作家だけで十分だという。長い旅路を経て、やっと求める核にたどり着いたということなのだろう。
現在、生活のハレの場としての広坂のギャラリーと、ケの場としての犀川(さいがわ)沿いのショップとを両輪で運営。市郊外の丘の上には工房。そこでは、間近に迫った台湾での展覧会の準備が進められていた。
1200度の溶解炉の前に立つ辻は、ギャラリーやショップにいるときとはガラッと印象が変わる。サングラスで目を守り熱と対峙するその姿は、男前でたくましくてかっこいい。日本画か商業デザインか、アートか工芸か、現代美術か生活工芸か。すべてを自らの熱で溶け合わせながら、新たな挑戦の形を生み出していく。赤い炎に照らされた辻が、何やらガラスそのもののように思えてきた。
つじ かずみ◉1964年、石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、カリフォルニア美術工芸大学で吹きガラスを学ぶ。金沢卯辰山工芸工房勤務を経て90年に独立。ガラス作家としての活動の傍ら、金沢市内でギャラリーやショップを経営、生活にかかわるさまざまな提案を行っている。
石塚定人=写真
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