2.なぜ今なのか
1976年成立以来これまで、大統領が宣言した「国家非常事態」としては、カーター政権当時のイラン米大使館人質事件(1979年)、レーガン政権当時のリビアを対象とした経済制裁(1985年)、ジョージ・H・W・ブッシュ政権当時の旧ユーゴスラビア内戦に関連する対ユーゴ経済制裁(1992年)、ジョージ・W・ブッシュ政権当時の9・11テロ関連(2001年)、オバマ政権当時のインフルエンザ大流行(2009年)など、国内のインフルエンザ以外はほとんどが国際情勢に関連したきわめて緊急性の高いケースが対象だった。
ところが、今回の「脅威」はそもそも今に始まったものではなく、数十年も前から指摘されてきた不法移民問題の一部にすぎず、最近、その数が急増したという証拠はどこにもない。
それどころか、政府公式データによれば、実態はその逆で「顕著な減少傾向」を示している。
たとえば、先月公表された連邦税関国境警備局(CBP)最新記録によると、昨年1年間に逮捕された不法入国者数は39万6000人で、160万人が逮捕された2000年当時にくらべ約4分の1に激減した。そして今年に入ってからも、増加傾向は見られず、昨年同様、減り続けているという。その理由として、トランプ大統領が固執する壁建設とは無縁の、国境警備隊によるパトロール警備強化が指摘されている。
つまり、今回の「国家非常事態」宣言に何の緊急性も切迫性もないことを裏付けたものだ。