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2019年3月9日

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稲泉 連 (いないずみ・れん)

ノンフィクション作家

早稲田大学第二文学部卒。2005年『ぼくもいくさに征くのだけれど—竹内浩三の詩と死—』(中央公論新社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)がある。

 ただ、彼ら設計チームが苦心したのは、そのように部材のアイデアを考え、設計を進めていく最中にも、政府や発注元である東電からの要求水準が高まっていったことだ。最初は「とにかく覆ってほしい」というものだった要求が、燃料取り出し設備の設置の追加を経て、最終的には従来の原子力設備に適用される「Ss」の耐震性が求められることになったからだ。Ssは施設に大きな影響を与えると想定される地震動を指している。

 「例えば1000トンの鉄骨を2000トンにすれば、より強い地震に耐える建物を作るのは簡単です。しかし、2000トンの鉄骨を使用するということは、作業員の被曝がそれだけ増えることを意味する。同じ重さの構造物に数倍の耐震性をもたせるために、オイルダンパーやストッパーなど、鹿島建設の持つ耐震技術を存分に投入していきました。要求が増える度に描いた図面が全てパーになるわけですから、最初はいつも『本当にやるんですか』という気持ちになったものです。でも、最後には『それをやるのがわれわれの仕事だ』と思い直し、腕の見せ所だと奮起することの繰り返しでした」

廃炉という仕事の本質は
次世代への責任

 その頃、東京・赤坂の社屋の一室に設けられたプロジェクト室には、「機械屋、工事屋、解析屋、設計屋と多様な技術屋」が必要に応じて集まって案を練る日々が続いた。

 鹿島建設OBにも相談し、3号機上部のドーム型の燃料取り出し施設の形は、そのなかで彼らが導き出した「最適解」だったという。

使用済み燃料取り出しが行われるドームの内部
(出典:東京電力ホールディングス)

 3号機の上部のカバーは、ドームを八つに輪切りにしたユニットでできている。一つのユニットは半円状の二つの部材に分けられており、組み合わせた後にフロアのレールに乗せて動かしていく。

 ドーム型の利点は軽さに加えて、取り出し設備を取り付けるオペレーティングフロアの空間を広く取れることだ。また、「被曝低減設計」の視点からも、現場での作業時間を短縮できるメリットがあった。

 ユニットは「3ヒンジ」と呼ばれ、3カ所のみでシンプルに接続される。福島第一原発での建設作業では、一度運び入れた部材を簡単には交換できないため、現場での組み立ての失敗が許されない。よって各建設会社は物資の輸送基地である小名浜港で巨大なカバーを一度組み立ててから分解し、船で現場へと運び入れて一発勝負の組立作業を行ってきた。

 しかし、鉄骨は温度によって伸び縮みするため、巨大な部材にはワイヤーなどを使って「歪(ゆが)み直し」をする場合がある。よって接続部分を3カ所まで絞り込み、施工時の誤差をある程度まで許容できる円形は合理的だった。部材の誤差をなくすのではなく、誤差があっても接続が可能な形を選んだというわけだ。

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