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2019年3月7日

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矢沢彰悟 (やざわ・しょうご)

大学卒業後、スポーツカメラマンやライターとして活動するも、学生時代から携わっていたサッカー指導者としての道を本気で志すため2015年、スペインのバルセロナに。現地の監督養成学校にて監督ライセンスを取得し、現地の少年から大人までの監督、 コーチを歴任する。 スペイン監督最高ライセンスを取得し、現在は国内クラブの育成年代を指導する。

■全選手の試合出場をルールで課するカタルーニャサッカー協会

 冬の高校サッカー選手権や野球の甲子園ではベンチにも入ることができずにスタンドで応援する“選手たち”を見るのは日本では当たり前の光景だが、スペインの、いや海外からの視点では非常に摩訶不思議な光景に見える。

 

「彼らは何がしたくてそのクラブにいるのか?」

「うまくなりたいなら応援するより他にやるべきことがあるんじゃないのか?」

「指導者は彼らにプレー機会を与える仕事はしなくていいのか?」

「この人数で普段練習なんてできるのか?指導者は一人一人をよく見て指導するなど不可能ではないのか?」

「出られない選手がこれだけいる大会に何の意味があるんだ?」

 

 スペイン人指導者とこの日本の環境の話をするときにほぼ間違いなく聞かれることだ。

 

 少しこちらの環境の話をすると、カタルーニャのU-12以下のカテゴリーではリーグ戦を1パート15分(U-10は12分)の4パートで1試合を構成する。そこでカタルーニャサッカー協会は全選手最低2パートフル出場しなければならないというルールを課している。これは「選手は守られるべき存在」という概念から来ているルールだ。もちろん準備してきたものを発揮する機会を与えるというサッカーの育成的な観点もそうだし、何よりも小学生年代の選手が1試合の間出番を与えられずにずっとベンチに座ったまま試合を終える時の気持ちを考えてみてほしい。この年代の選手にそんな精神的苦痛を与えるのは酷だ。教育的観点から見ても良くない。選手にとって「自分はチームに必要な存在だ」と認識できるということは、チーム指揮において何よりも重要なことだ。

 13歳以上のカテゴリーでは各選手間で競争することも少しずつ学ばなければならないと考えられているため、そのルールはなくなる。それでもケガ等を除いて、1選手が年間で全体の40%以上の出場時間を確保しなければならないというルールがある。

 そもそも選手間である程度出場時間に差が出ることはあるが、1試合でベンチ登録されている選手が全く試合に出場せずに終わるなどということは価値観としてありえない。指導者は必ず全選手をピッチに送り出す。それはもはや不文律のようなものだ。なぜなら、そうしなければ選手は育成できないのだから。

 また1クラブが同カテゴリー内に複数のチームを登録することもできる。例えばU-16カテゴリーに4チーム作り、各チームに担当の監督がついて全チームがリーグ登録する。「ベンチ外」の選手がほとんど出ないような仕組みになっている。

育成年代において全選手が試合に出場するのは権利であり、大人はその権利を守ってやらなければならない

 日本では試合に出られなくても裏方でチームを支えるということが美談として扱われるが、決してそうではない。それはいわば時間の浪費だ。表に出る選手たちの裏には、その何十倍もの犠牲となっている選手たちがいる。そんなことをしている間に世界の同年代の選手たちは全員が毎週火花を散らして厳しい試合を重ねているのだ。それが選手育成において大きな差につがなっている。

 育成年代のスポーツにおいて試合に出場するということは“選手の権利”だ。“指導者が”出場時間を選手に与える権利を持っているのではない。

 カタルーニャではサッカー協会がルールによってその権利を保障しているが、選手の権利を守るのはその周りにいる大人たちの役割だ。義務と言ってもいい。

 日本で同じようなルールが可能かどうかはわからない。それにはまずリーグ戦の整備や同クラブからの複数チームの登録、指導者の質と数の確保など、課題は多く残る。だが最も大切な視点である、「選手は試合に出るためにいる」「選手は守られるべき存在」。その本分を認識せずに、選手の育成は成り立たない。

  
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