医師も驚くほどの知識を身につけていた李登輝
2015年の訪日はそんなさなかのことだった。福島県郡山市にある「南東北病院」では、すでに中性子によるガン治療設備「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」が備えられ、実際の治療に向けての準備が進められていることを、李登輝や私は、資料や京都大学の研究者から聞くなどして知っていた。
そこで、李登輝自身「実際にこのBNCTの設備を見てみたい」ということで「郡山に寄れないか」という一言が飛び出したのだ。
前述の江口氏の協力もあり、この南東北病院訪問は実現した。
病院側が準備してくれた午餐会の席上、李登輝は家族8人で写った写真の拡大コピーを手に挨拶に立ち「どうにかして、台湾の死亡率第一位の癌を減らしたいという思いを常に持っていたところ、BNCTという最先端の治療方法が日本で完成されつつあることを聞き、将来ぜひとも台湾へ導入したいと考えたわけです。(中略)実際にBNCTの機械を見るのは今日が初めてですので、非常に楽しみにして参りました」と述べている。
視察に入った李登輝は、病院側の説明に耳を傾け、疑問に思ったところは熱心に質問していた。何より、李登輝が医師も驚くほどの知識を身につけて視察に訪れたことに心底びっくりしている様子だった。視察を終えると、地元のテレビや新聞からも質問が飛んだが、私は新幹線の時間が迫っていたこともあって冷や汗を流しながらそばに立っていたことを思い出す。
実際に最新鋭の設備を見学し、治療の利点や今後クリアすべき課題などを徹底的に聞き取った李登輝は非常に満足そうだった。仙台へ向かう新幹線のなかで「寄って良かったな」とご満悦だった。