2024年12月14日(土)

Wedge REPORT

2019年3月11日

 また今年も3月11日を迎えた。東日本大震災から8年を迎え、復興庁も2021年3月に終了を予定している。東北地域はすでに復興をとげてきていると思われがちで、人々の記憶からも風化しつつあるが、実態はどうであろうか。

(zhaojiankang/Gettyimages)

緊急・復旧・復興フェーズに続く、事業再生

 大規模災害が発生するとまずは人命の救出救助など「緊急対応」が優先する。自治体では被災した人々が一時避難する避難所が開設され、支援物資などで最低限の措置を図っていく。その次には、インフラなど寸断したライフラインの「復旧対応」。安全が確保されたのちには、いよいよ本格的な「復興活動」が始まっていく。被災した人々は自らの生活再建を図ると共に、事業体は「事業再生」を進めていく。まずは発災前の状態を目指していくことが多い。

 事業の再生には、金融的な支援として国などの行政機関がグループ補助金など優先的かつ弾力的に支援を行うが、地域の金融機関でも資金的な支援を行っていく。しかしながら、金融機関では低金利の中、新たな貸し先を探すが、貸し倒れの危険性が高い事業先に対しての融資は、経営リスクとして内部で引当金をあてなくてはならないため、低金利で利ザヤが稼げない中では直接的に利益を圧縮するため、なかなかリスクを取りにくい事情がある。

 こうした間接金融や助成金が流れにくい場合の資金調達の方法としてはクラウドファンディングなども一般的になってきているが、実際に集まるかどうかはやってみなければわからない。そんな中、ユニクロなどから寄付によって託された資金をベースに私募債や株式の引き受けで資金的支援と経営的支援を組み合わせてサポートするのが、筆者が代表を務め「基金ジャパン」と呼ばれる一般財団法人 共益投資基金JAPANだ。

 東日本大震災の2011年秋に新設された財団法人で、活動当初は「東北共益投資基金」と名乗っていた。実質の無利子融資のようなスキームで返済いただいたものは地域に再投資してNPOなどの自立に役立てるなど新しいタイプの基金として「二度の資金循環」をコンセプトに活動。東北地域の被災3県にわたる14事業に対して、累計1億7000万円の支援実績をもっている。また熊本地震の被災地に対しても同様の基金を持っており、別に地域創生に役立ているため過疎地行政と別の基金を立ち上げてノウハウ移転をするなどの活動を行っている。

 基金が生み出したインパクトとしては、支援した金額は1億7000万円だが、基金からの支援によっていわば、リスクをとることをきっかけに国からの助成金や他の金融機関からの融資を得るなどの累計は13.4億円にも及び、いわゆるレバレッジ効果として多くの資金調達に繋がっている。また支援先合計で震災前より売り上げは2.26倍に、雇用は震災前の1.82倍になるなど経済環境が厳しい中でも健闘している。

中小企業による連携で、新たな造船事業モデルを開始

 しかしながら、個別の企業でみていくと、厳しい状況を迎えているところも少なくない。宮城県石巻市の「佐藤造船所」は昭和元年に創業した中小船舶の改造・整備・修理の会社。

 伝統的な"船大工"の匠として木造船(和船)を造る技術は代々受け継がれ、現代のグラスファイバーを活用した漁船にも活かされている。また、石巻地域の経済においては水産関連業は大きな比重を占めており、雇用の維持と合わせて地域における養殖漁業や沿岸漁業の船舶の整備で重要な役割を担ってきたという自負があった。

 震災では、造船所の建屋は残ったものの6本の上下架設備(船体引き上げレール)のうち5本が全壊し、設備機械・資材も相当量が流出した。基金ジャパンから2011年末に2000万円の支援を実行すると共に、アドバイザーを派遣してコンサルティングを実施、事業の再建を二人三脚であたってきた。やっと昨年度からようやく一年を通じて事業活動が行えるようになったが、8年を経過して月商は震災前の3分の1に落ち込んでいる。

 同じく石巻市の「及川電機」は、昭和23年創業で船舶の電気機器や艤装(ぎそう:船舶運航に必要な機器類の取り付け)事業を手掛けてきた。震災によって、工場や設備は全壊し、トラック等の車両も大きな被害を受けた。かろうじて残った倉庫を補修し、仮の工場として震災後数ヶ月を待たずして業務を再開。流出した機械工具類等を収拾し、工夫しながら自力で機械等を製作した。折りしも石巻地域の浸水した船舶のモーター塩抜き洗浄や、動力・電気機器の修繕・整備等の仕事が社員の手に余るほど多数舞い込み、いわゆる復興需要に直面した。基金ジャパンでは2012年春に1800万円の資金支援を行い、復興需要を引き受けるための資金面で支えた。

 また佐藤造船所・及川電機を支援するアドバイザーが同じであったため、水産業のサプライチェーンの屋台骨である船舶メンテナンス機能に着目し、地域の造船・造船関連の中小企業による連携によって、新たな造船関連事業モデルを創生できるように取り組み、合同で国交省の補助金獲得にチャレンジした。その結果、工期は大幅にずれ込んだが佐藤造船所の新工場は今夏に稼働開始を予定し、及川電機の新工場は稼働を開始、作業効率も向上して、新入社員を迎え、受注数も伸びて月商も震災前のレベルにまで回復した。


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