国家分裂状態のリビアが新たな内戦の危機に直面している。東部ベンガジを拠点としていたハリファ・ハフタル将軍(75)の「リビア国民軍」が首都トリポリの制圧を目指して急迫、対立する民兵連合軍との大規模な軍事衝突に発展しかねない情勢だ。背後には旧宗主国であるイタリアやフランスの石油資源の争奪戦も見え隠れしている。
軍事行動の3つの理由
「リビア国民軍」の進撃が始まったのは4日のことだった。ハフタル将軍は「首都トリポリの住民の呼びかけに応じる」として突然、進撃の命令を下した。数千人規模の戦闘員が加わっていると見られている。国民軍は6日にはトリポリに迫り、南部近郊の旧国際空港を占領したようだ。
これに対し、中央政府に当たる「リビア暫定政府」を支持する民兵軍団が地方から続々トリポリに集結、国民軍との臨戦態勢に入り、旧国際空港周辺では交戦状態になったという。暫定政府のシラージュ首相は侵略者に対し徹底抗戦するよう民兵組織などに訴えた。
緊迫した情勢を受け、国連のグレテス事務総長がリビア入り、「軍事的解決はあり得ない」として対話を呼び掛け、また開催中だった先進7カ国(G7)外相会議や国連安保理も軍事行動の停止を求める声明を発表した。だが、ハフタル将軍はあくまでも首都制圧の構えを崩していない。
リビアは2011年、時のカダフィ独裁政権が「アラブの春」と北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入で崩壊、各派入り乱れての内戦状態になった。現在の権力は、国連が支持するトリポリの「暫定政府」、イスラム主義勢力が中心の「制憲議会」、東部トブルクの「暫定議会」、そして「リビア国民軍」の4派に分裂。各派が民兵軍団を抱え競い合い、密輸や難民の欧州への密航ビジネスなどに手を染め、過激派「イスラム国」(IS)分派の浸透も伝えられている。
そうした中でなぜ国民軍のハフタル将軍が軍事行動を起こしたのか。これについては3つ指摘できるだろう。1つは国連の和平会議と関連するものだ。国連は来週末に西部ガダミスで「国民会議」を開催する予定で、同国の政治決着に向けての話し合いが加速すると観測されていた。このためハフタル将軍が会議で優位な立場を確保するために行動を起こした可能性がある。
2つ目は、将軍が昨年6月ごろから、リビアの生命線であるエネルギー資源豊富な東部「石油の三日月地帯」の支配を固め、2カ月前に最大の油田である南部砂漠地帯の「シャララ」を占領したことから、石油・天然ガス資源の支配に一区切りついたと判断、かねてよりの野望である全土の掌握に向けて動いたというものだ。
3つ目は75歳という高齢であることから「残された時間がない」として一か八かの賭けに出たという可能性だ。しかし、暫定政府を支えるためトリポリに駆け付けたミスラタの民兵軍団はカダフィ大佐を殺害した強力な組織で、将軍が首都制圧を強行すれば、激戦に発展することになろう。