グローバル化は85年のプラザ合意以降、指摘され続けてきたテーマであり、製造業の海外生産比率はこれまで一貫して上昇してきた。しかし、以上のような事例は、グローバル化が新たなフェーズに入ってきていることを示しているのではないか。
日本人はいらない?
日本経済は、03年から08年にかけて、海外生産が増加する一方で、国内生産も増え、輸出も増えるという好景気を経験していた。新宅純二郎・東京大学准教授は、日本経済新聞の「経済教室」で、日本の製造業は80年代までの「完成品の欧米向け輸出モデル」から00年代の「産業財のアジア向け輸出モデル」に転換したことを指摘している。日本企業は、最終製品で世界シェアを落としたが、代わりにシェアを高めた韓国や台湾の企業に、鉄鋼、化学製品、電子部品、金属加工機器といった産業財を輸出するという構造転換を遂げたという。
しかし、リーマンショックはさらなる変化を日本に促している。世界の消費の中心が、先進国から新興国に移りつつあるからだ。当然、高品質より低価格が重要になる。
「中国向け製品を中国で生産する」のが主という時代に入っているのなら、あらゆる製品について国内で生産する意味は薄れる。だからこそ、これまで国内拠点にこだわることのできた産業財の業界においても海外移管が広がっているのではないか。
産業財の輸出相手はこれまでの韓国・台湾から、中国企業に変わっていく。「中国企業をターゲットにした競争では、どのようにして、日本企業の強みである品質を維持しながら、現地企業ニーズを満たした低価格の製品をつくるかという課題が突きつけられている。そのためには、現地ユーザーのニーズを現地でつかまえることと、現地発の商品企画が必要」と新宅准教授は指摘するが、まさにそのとおりの事例が出始めている。
ファーストリテイリングは商品デザインや生産管理といった機能の大半を東京から中国へ移すとしているし、三井物産は石油製品やインフラ、情報産業といった分野で、本社の総合職社員100人強をアジア地域に移管する予定だ。クラリオンは、カーナビゲーションの開発機能について、中国に軸足を移そうとしている。内閣府のアンケートによれば、開発、研究機能や本社機能を海外に移す検討を始めている企業が決して少なくない。
こうなれば、人材が日本人である必要すらなくなってくる。パナソニックは11年卒の採用で国内新卒を前年比4割減の290人とする一方で、海外採用は前年比1.5倍の1100人と、過去最高水準にまで拡大する。コニカミノルタは、外国人、または海外留学の経験のある日本人の割合は11年卒採用で約1割だが、今後は2割台を目安に増やしていく。中国人の積極採用は製造業以外にも広がっている。
10年卒の大学生54万人のうち、就職も進学もせず進路未定のまま卒業した人は8.7万人(16.1%)にのぼった。11年卒では2割を超すかもしれない。この新卒採用の激変は、決して景気循環などではなく、産業構造の大転換によるものなのではないか。「日本企業が日本という土地も、日本人という人材も必要としなくなってきている」という事実に早く目覚めなければ打つ手を間違える。
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