米国の台湾防衛へのコミットメントを含む「台湾関係法」は、1979年4月の制定から、ちょうど40周年を迎える。この節目に、米台関係の更なる強化を目指す動きが多く見られる。その一つに、3月27日に米国の超党派の上院議員が提案した「台湾保証法案(Taiwan Assurance Act)」がある。これは、上院外交委員会の重鎮であるボブ・メネンデス上院議員(民主)が、トム・コットン(共和)、マルコ・ルビオ(共和)、テッド・クルズ(共和)キャサリン・コルテス・マスト(民主)、クリス・クーンズ(民主)の各上院議員と共同提案したものである。この法案の骨子は次の通りである。
・大統領に、米台関係に関する国務省のガイドラインの見直しを命ずる。
・二国間および多国間の軍事演習に台湾を含める努力をするよう、国防長官に指示する。
・将官が台北に駐在武官として赴任することを求める。
・米国は、台湾の国際機関への意味ある参加を主張し続ける。
・台湾の非対称国防戦略、米国の武器の台湾への定期的な売却、米台二国間通商交渉の再開に対する、議会の支持を表明する。
このところ、米議会の親台湾の姿勢は勢いを増す一方である。昨年は、双方の高官の交流を勧奨する「台湾旅行法」、米台防衛協力強化を謳った「国防授権法2019」、米国の台湾の安全保障へのコミットメントを改めて明言した「アジア再保証イニシアティヴ法(ARIA)」が続々と成立している。そして、それに上記の「台湾保証法案」が新たに加わった。
習近平は、今年1月2日の演説で、「一国二制度」による台湾の統一を目指すこと、台湾統一には武力の行使をも辞さないこと、などを明言している。3月末には中国の戦闘機が中台中間線を越え台湾側に侵入するという異例の威嚇行為に出た。
従来、台湾との関係では、米議会が積極的で、米政府は慎重であった。しかし、トランプ政権は、台湾問題では積極姿勢に大きく舵を切っている。長年米政権が及び腰であった台湾への武器売却を加速させる構えを見せ、米海軍の艦船による台湾海峡の通過が頻繁に行われるようになっている。また、4月3日には、米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)は、2005年以降、海兵隊員を含む現役軍人が台北に派遣され同協会事務所の警備に当たっていることを明らかにしている。これは、「台湾保証法案」が求める「将官が台北に駐在武官として赴任すること」に通ずる内容であると言える。
議会の親台湾姿勢の加速、トランプ政権の対台湾積極姿勢の下、台湾へのF-16V戦闘機(従来の台湾の主力戦闘機F-16の改良版)の売却が進むかが大きな焦点となっている。台湾側は60機のF-16Vを求めているという。『防衛白書』平成30年版によれば、第4、5世代戦闘機の数は、中国852機に対し、台湾327機である。質量ともに中国が台湾の空軍力を圧倒している。台湾海峡の「現状」を維持するには、米国による台湾への武器売却を含むコミットメントによる抑止力の強化が不可欠と思われる。
なお、米AEI研究所のマイケル・マッザ研究員(台湾問題に詳しい)は、トランプ政権がこの2年で米台関係を前進させたことを評価しつつ、「米台関係が今後とも繁栄し続けるには議会のリーダーシップが死活的に重要である」、「議会は依然として米台関係の要塞であり、新たな時代の米台関係の構築に重要なリーダーシップを提供し続ける」と指摘している。これまでの米国の台湾政策の決まり方、また、トランプ政権の移り気な性格を考えると、マッザの指摘は的を射ているように思われる。「台湾保証法案」は取り立てて目新しい内容を含んではいないが、米議会の意思表示という意味で、やはり重要であると思われる。
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