2024年11月21日(木)

解体 ロシア外交

2019年4月26日

問われる新大統領の手腕、その実力は?

 ロシアの揺さぶりがこれで終わるとは思えない。ゼレンスキーは最初から厳しい試練に晒されたが、これからの彼の手腕が注目されるところである。

 それでは、ゼレンスキーはどのような人物か。彼は、ウクライナ南部のクルィヴィーイ・リーフ市にユダヤ系ウクライナ人として生まれ(父親の仕事の都合で幼少期に4年ほどモンゴルで過ごした)、キエフ国立経済大学のクルィヴィーイ・リーフ校で法学を専攻したが、在学中に地元の仲間と結成したコメディグループ「第95街区」がロシアの人気番組で優勝し、以来、政治風刺ショー、プロデューサー、俳優、司会者など多面的な活動をしてきた。

 そして、ゼレンスキーの当選を助けたのが、テレビドラマ「国民の奉仕者」に彼が主演したことだろう。同ドラマは、平凡な歴史教師が政権の腐敗を批判する様を生徒が撮影して、インターネットにその動画を投稿すると大反響が起きて、その教師が大統領となり、汚職や財閥と戦っていき、国を正していくというストーリーである。

 ちなみに、第一回投票前に放送された内容は、抵抗勢力によって反撃を受け、弾劾されたり、冤罪で収監されたりしてもめげずに大統領に再任し、親欧米派と親露派で分断された国家を一つにまとめあげてゆくというものであった。現実のウクライナの問題をドラマで解決してゆく様は、内戦の終結と平和を望む国民の期待を膨らませたと考えられる。

 ゼレンスキーが大統領選挙への出馬を表明したのは2018年の大晦日であり、それは電撃的な発表とみなされているが、実は、ドラマに出てくる政党と同名の「国民の奉仕者」という政党を2017年末に登録していた。また、2018年の春から外交や経済の専門家と接触していたことから、出馬の準備は実はかなり前から始めていたと言えそうである。

不安の声も……

 ゼレンスキー最大の勝因は、現職のポロシェンコに対する失望があまりに大きかったことであった。「ユーロマイダン革命」を契機に大統領に就任したポロシェンコだったが、ウクライナの経済的困窮は続き、汚職が蔓延、そしてポロシェンコが1週間で終わらせると言っていた東部の戦闘はいまだにくすぶり、また、ロシアとの関係が悪化する一方であり、国民はポロシェンコの政治に何も期待できなくなっていた。ポロシェンコがゼレンスキーとオリガルヒ(新興財閥)のコロモイスキーの関係(後述)、ひいては彼らとロシアとの関係についてばかり批判したことも、裏目に出た。

 とはいえ、ゼレンスキーに不安の声が多いのも事実だ。

 ゼレンスキーは、専用車で公道を優先通行する特権を放棄したり、飛行機移動も民間機を利用したりすると、大統領特権の多くを放棄すると宣言して、庶民派をアピールしつつ(ただし、実は大変な資産家である)、汚職を廃絶してウクライナを改革し、親欧米路線を追求してゆくと宣言しているが(ただし、EU、NATOの加盟の際には国民投票を行うとも述べている)、彼の政策には具体性が欠けていることが懸念されている。

 また、ゼレンスキーが18日に発表した20人の政策チームは30~40歳代の若手が中心で、一部を除き、ほとんどが無名である。

 さらに不安視されているのが、議会が機能不全に陥る危険性である。政権運営には最高議会の協力が不可欠だが、ゼレンスキーの政党「国民の奉仕者」の議席数はゼロであり、ポロシェンコ派が最大会派を形成しているため、政策を提案しても、容易に承認されない可能性は高い。


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