実は財閥の手足に過ぎない?
最後に、クリーンなイメージを打ち出してきたゼレンスキーが、実は財閥の手足に過ぎないのではないかという懸念もある。ゼレンスキーのバックにいると言われているのが、総資産額11億ドルを所有すると言われるオリガルヒのイホル・コロモイスキーである。彼は、金融、鉄鋼、メディア、エネルギー、投資と非常に多くの分野に進出しており、ゼレンスキーが出演するテレビ局「1+1」も所有している。
コロモイスキーはウクライナ危機の際に私兵や私財を差し出してウクライナの秩序回復に貢献し、危機の直後にドニプロペトロフスク州の知事に任命されるなど、ポロシェンコと当初は関係が良かったが、やがて関係が悪化し、2015年3月には知事も解任された。その後、コロモイスキーのウクライナ最大の商業銀行「プリバトバンク」も国有化され、コロモイスキーとポロシェンコの関係は完全に冷え切っていた。他方で、ゼレンスキーとコロモイスキーの関係の深さは周知の事実であり、ゼレンスキーがコロモイスキーの手足になるのではないかという懸念が持たれていることは間違いない。
なお、ゼレンスキーは通常はロシア語話者で、公用語のウクライナ語は苦手であるため、勉強中であるという。
プーチンにとっては赤子の手を捻るようなもの?
このように、今後の政権運営には不安の声も多いものの、ポロシェンコへの失望が国内外であまりに高かったことが、相対的にゼレンスキーへの期待値を高めている。欧米諸国もゼレンスキーの当選を歓迎し、多くの欧米首脳が早期の首脳会談を望んでいるという。
しかし、ウクライナの今後の命運を握るのは、やはり隣の大国・ロシアである。老練な政治家・プーチンにとっては、ゼレンスキーとの交渉は赤子の手を捻るようなものであるかもしれない。ロシアは、ウクライナ東部の問題につけ込みながら、ウクライナに揺さぶりをかけ、ひいては欧米に対して圧力をかけてゆく可能性が極めて高い。新大統領の誕生が、ウクライナにとって起死回生の契機になるのか、ウクライナにとってさらなる試練をもたらすものになるのか、今後の動向が注目される。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。