2024年4月23日(火)

インド経済を読む

2019年6月3日

日本企業に突き付けられた「課題」

 さて、そんな「電子化」が急激に進むインドだが、問題がないわけではない。

 インフラが脆弱なインドでは申告の締め切り間際に停電になったり、インターネットが切れて申請が間に合わないことも珍しくない。夏休みの宿題のように、何事も期限ギリギリにやろうとするインド人にとって、この手のトラブルは日常茶飯事である。しかし、そのような問題が頻繁に生じるにもかかわらず、インド政府は「電子化」をどんどん推し進めるし、国民もそれに不平を唱えることもなく、柔軟かつ我慢強く対応している。

 例えば、日本の消費税にあたるインドのGSTの年次申告もそうだ。2018年3月期のGST申告は当初、2018年12月を期限とする予定だった。しかし、政府側による電子申告の準備が遅れ、期限を2019年3月に一旦延期、その後、さらに延びて2019年6月末となった。年度末から1年以上たってようやくの申告である。そのうえ、監査する会計士側、申告を行う納税者側の対応はいまだ手探りの状態で、期限まで残り1カ月しかないこのタイミングでも様々な憶測が飛び交っている。

 そのようなカオスの状態でも、インド国民は「あせらず、あわてず、あきらめず」、粛々と対応しようとしている点が、日本人の私から見るといつも不思議に映るのだ。

 最近出版した拙著『お金儲けは「インド式」に学べ!(ビジネス社)』にも書いたが、インド人はとにかく「見切り発車」が上手い。政府は、不完全であろうと新しい提案をどんどん発表する。状況に応じて朝礼暮改を繰り返す一方、国民もそれを当たり前のように受け止め、柔軟にやり方を模索し対応することに慣れているのだ。

 以前も、このコラムの記事で、インドの高額紙幣廃止事件から生じた電子決済への流れの時に発揮された「インド人の柔軟さ」に触れた。

 彼らはこれから世界で起きるIoT、AIなどの波もすんなり受け入れていくだろう。インド人はこうした「変化」を恐れないし、「混乱」を乗り越える知恵を持っている。そのようなインド市場でビジネスのチャンスを掴むには、こちらにも「変化」や「混乱」を恐れない「勇気」と「知恵」が必要になる。それは、紙の書類や印鑑文化からいまだ脱却できない日本企業に突き付けられた課題とも言えるだろう。

連載:インド経済を読む

  
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