2024年4月19日(金)

インド経済を読む

2019年6月3日

「小さな政府で、大きな統制」

 さて、インド政府はどうしてこれほどe-Office Modelに力を入れるのだろうか。

 モディ政権は前述の100日プランの中で、そのメリットを、「Minimum government, Maximum governance」と説明している。「小さな政府で、大きな統制」という意味だ。

 「小さな政府」については分かりやすいだろう。

 電子申請にすると、役所はその作業工数を大幅に削減できる。窓口に人も不要になり、パソコンの画面越しに書類をチェックするだけ。この作業工数の削減は政府コストの削減にも資するだろう。また、インド政府はこのプロジェクトにより、役所全体で使われている紙の80%を削減できると説明している。環境問題への対策もアピールしているモディ政権らしい政策と言える。

 では、2つめの「大きな統制」とはどういうことか。

 電子申請により人の手を介して行われていた作業が自動化されるので、作業ミスや書類の紛失が大幅に減少する。「小さな政府」になっても、その効果は大きくなるということだ。

 だが、インド政府の表現する「統制」の真の狙いはそこではない。彼らが真に推進したいのは「統制」による「不正の撲滅」なのだ。

 すべての申請が電子化し手数料の納付も振込になれば、申請者と窓口の人間が顔を合わせる機会がない。顔を合わせる機会がないということは、「賄賂」を要求したり受け取ったりする機会がなくなるのだ。

 中国同様、インドも近年「不正の撲滅」に力を入れている。

 急激な経済成長が起きると、民衆の目は広がる格差や不正に向けられる。それが一向に改善されないと、その不満は政府に向けられる。中国と異なり、選挙により政権が決まるインドにおいて、その重要性はなおさらである。そして「クリーンさ」を売りに支持を伸ばしてきたモディ政権にとって、この「不正の撲滅」は重要な試金石になっているのだ。

 総選挙の時、私の知人であるインド人経営者はこう言った。

 「モディの政策がすべて正しいとは思わない。でも、彼は今までのリーダーと比べると清廉じゃないか」と。


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