2024年4月23日(火)

Wedge REPORT

2019年6月18日

出所後に頼るところがないのが、現実なんですよ…

 30代のある女性のことも、強く印象に残っています。地方の刑務所に(実の)母親を殺した罪で10年程、服役していました。ある日、所長から連絡をいただき、受刑者約500人の前で職業講話をしたのですが、そのうちの1人だったのです。仮釈放となり、ここの連絡先を調べて来ました。「あの時、社長の講話を聞いてから、まじめに生きてこうと思った」と泣きながら話していました。

 女性は相当なアルコール中毒で、酔うと見境がなくなってしまう。大量に飲んで、気がつくと、母親を刺し殺し、血だらけになっていたようです。本人から聞くと、子どもの頃から、母から虐待をされていたみたいですね。殺人という罪が許されるとは思いませんが、出所後に頼るところがないのが現実なんですよ…。

 それで、彼女を雇ったのです。メンタルに弱いところもありましたから、1日置きで働くようにしました。1ヵ月間はまじめでしたが、それ以降はひどかった。ある日の晩、スナックで飲み続け、問題を起こす。ある日には酔っ払い、包丁をもったまま、コンビニエンスストアに強盗で入った。警察に捕まり、留置所へ。こんなことが繰り返されたのです。

 その都度、私やここで働くとび職の先輩たち、寮母さんなどが引き取りに行く。深夜の場合も何度もありました。彼女を市内のアルコール依存の治療センターに入所させ、4ヵ月間程の治療を受けさせました。退院後、ひとりで住む部屋を借りて生活させたのですが、変わらない。夜中、酔ったうえで、路上で自分の肩をナイフで切る。自殺未遂のようでした。酔いがさめると、「すいません」と苦笑いをする。自殺未遂を繰り返し、その都度、救急車を呼ぶ。

 ひどい頃は、2∼3日に1回のペースで同じようなことをしました。ついに、酔っぱらって、カラオケ店に刃物をもって入り、逮捕された。しばらくの後、彼女が身を寄せていた施設の職員から電話があり、「本人が社長のもとで働きたい、と話しています。面倒をみてあげていただけないですか?」と頼まれたのですが、断りました。彼女に必要なのは就労ではなく、治療だからです。

 深夜に何度も呼び出しを受ける日が続くと、心身がもたない…。2年近く、90分おきに「トラブルが起きた」という電話やメールが会社や寮から来る。その都度、本人たちと話し合う。私の体の具合が悪くなってきた。ほかのとび職や従業員たち、寮母さんなどにも大変な迷惑をかけてしまう。ここまで来ることができたのは、こういう人たちのおかげなんですよ。私が死なずにすんだのも…。寮母さんは、この女性も含め、寮に住んだ全員を「かわいい」「そんなに悪い子、いないもの…」と言ってくれる。この言葉で救われます。


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