オトナの教養 週末の一冊

2019年6月21日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――日本では、本書で言う「探索」にあたるイノベーションが起きないことが問題視されています。日本企業でイノベーションが起きにくいのはなぜでしょうか?

『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー,マイケル・L・タッシュマン 著、入山章栄 監訳、冨山和彦 解説、渡部典子 訳、東洋経済新報社)

入山:最大の理由は社会システムそのものがイノベーションを起きづらくしていることです。戦後から高度経済成長期まではこの社会システムが機能していましたが、高度経済成長期に入るとシステムが硬直化し、イノベーションが起きにくい環境が生まれた。

 まず雇用の流動性が低いのは大きな課題です。新卒一括採用で終身雇用という制度では、同じような環境で育った社員が定年まで働くので必然的に同質性が高くなる。「探索」とは、遠くの離れた知を幅広く見ることですが、このような同質性の高い組織では「探索」よりも「深化」に傾斜していきます。

――同質性が高く、硬直化した企業では、いま安定した給与をもらっているのに、リスクを冒し、イノベーションを起こすインセンティブが働きませんね。

入山:大手企業で講演すると感じるのですが、典型的なパターンがあります。現場の若手社員や経営陣は「いまのままでは自社が潰れるかもしれない」と危機感を抱いています。一方、40代後半から50代以上の社員は、定年ギリギリで逃げ切れるかもしれないという考えの上に、本部長などそれなりの役職に就いている方も多く、リスクを取れない。さらに言えば、教育ローンや住宅ローンを抱えている世代なので安定した収入を得たいのです。しかもその世代、中でも50代以降はバブル期の成功体験を引きずっている。その世代がイノベーションを起こすにあたり、障壁となりがちなのは、多くの大企業の共通イシューとなっています。

――40代後半から50代の世代の人たちは、他の世代に比べ能力が劣っているわけではないですよね。

入山:もちろんです。能力があり、チャレンジすれば花開く方もたくさんいます。大企業にはどういった役職かよくわからない肩書で燻っている方がいますが、本来ならそういう方は中小企業やベンチャーへ転職し、経営に携わるなどして能力を生かす道もあります。人が動くことは、「知の探索」にもなります。しかし、本人にその意欲があっても、大企業のステータスが捨てられなかったり、一部には大企業で働いている夫の妻であることを誇りに思う奥さんなどの家族の反対でチャレンジできないのは、日本でよく見られるパターンです。

――転職するのがリスクと感じるのでしょうか?

入山:転職が怖いのでしょうね。その背景の一つには、日本の教育の問題があります。日本では中高生になると、少しでも偏差値の高い学校へ進学し、就職ランキングで上位に位置する企業へ就職することが求められる。その過程で「夢を抱く」よりも「失敗してはいけない」ことを刷り込まれるからです。

 そうした環境下で自分がやりたいことがハッキリとしないまま職に就いても、なんのために働いているのか納得できていない。経営学でいうセンスメイキング理論で言えば、自分のやりたいことに納得ができないで働いている状態では「探索」はできないのです。

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