「日本の工作機械は世界最強」と語るのは、東北大学経済学研究科の柴田友厚教授。「工作機械」という言葉を専門外で知っている人はどれほどいるだろうか。高性能な工作機械がなければ、生活に必須なスマートフォンやパソコンや車、航空機の存在そのものが危うくなる。日本の工作機械産業は世界を牽引してきた。その内幕に迫ったのが、柴田氏が上梓した『日本のものづくりを支えたファナックとインテルの戦略』(光文社)だ。今回、柴田氏に日本の工作機械が優位に立った理由、日本企業の現在の問題点などについて話を聞いた。
――本書のテーマは日本の工作機械産業についてです。しかし、そもそも工作機械産業自体がメジャーな産業ではありません。
柴田:工作機械産業はニッチな産業で、一般的にはあまり知られていないかもしれません。しかし、日本の工作機械産業は非常に競争力が高いのです。しかも戦略的に重要な役割を果たしています。
工作機械とは、一言で言うと「マザー・マシン(母なる機械)」であり、「機械をつくる機械」とも呼ばれます。ものづくり産業全体は三層構造で考えるとわかりやすい。一番上位に自動車や家電、航空機などの最終完成品をつくる自動車メーカーや家電メーカー。次にそれらに部品を提供する企業。そして部品をつくる際に欠かせない工作機械産業です。たとえば、車のボディやスマートフォンの筐体は工作機械で切削や加工されています。現在のようにエレクトロニクス製品の小型化と高性能化が進んでいる状況では、工作機械にも高い加工精度が求められています。つまり、ものづくりを支える基盤産業なのです。日本やドイツといったものづくり大国を支える背後には強い工作機械産業があります。ただし、約1兆数千億円と市場規模がさほど大きくないうえに、工場で使われるためになかなか目立ちません。
日本の工作機械産業は、1982年にアメリカとドイツを抜いて以降08年まで、約4半世紀にわたり世界最大の生産高でした。この産業の革新の歴史を知ることで、あらためて日本のものづくりの底力を知ることができます。
――今、この本を書いた理由は?
柴田:日本の工作機械産業は最初から強かったわけではありません。70年代前半までは米国の後塵を拝していました。しかし、職人による制御からコンピュータによる自動制御へという70年代後半の技術の転換期をうまく生かし、世界の先頭に躍り出たのです。
今、日本は同じような技術の転換期に直面しています。とりわけ日本の屋台骨というべき自動車産業はCASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)など、100年に一度と言われる大変革の波に襲われており、この波をうまく乗り切ることができるかどうかが、今後の命運に大きな影響を与えるでしょう。これほどの荒波は、自動車産業にとって初めての経験だと思います。この場合、他産業の歴史から学ぶことです。単なる既存の顧客満足だけでは乗り切ることはできないのです。既に荒波をうまく乗り越えて世界一になった工作機械産業の歴史から学べることは多いはず、それが今、本書を書いた大きな理由です。