2024年11月13日(水)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2018年8月14日

 6月5日、シャープは東芝のパソコン(PC)事業を40億円で買収すると発表した。シャープの親会社である台湾・鴻海精密工業は、米アップルのiPhone(アイフォン)の受託製造企業として世界的な地位を築いているが、PCのOEM(相手先ブランドでの生産)が本業であり、世界のPC生産の大部分を担っている。

(Artyway/ChrisGorgio/iStock)

 低コスト生産が鍵を握るPC事業はまさに得意分野であるうえ、東芝が現在までに要した研究開発費などのイニシャルコストが一切かからないことも大きな利点だ。

 東芝のブランド「ダイナブック」は、かつてはノートブックPCで世界トップの座についていたこともあり、今でもそのブランド価値は高い。その看板をつけたPCを低コストで大量生産し、販売できることは大きな強みであり、40億円での買収は「お得」な買い物と言えるだろう。

 なお、あまり認知されていないかもしれないが、鴻海は需要が拡大しているクラウド・コンピューティング向けのデータセンター事業を行っている。そして、シャープによる東芝PC事業の買収は、データセンター、PC、スマホを結ぶパッケージ商品によってグループ全体の競争力を高めることを可能にする。

 データセンターは、それ単独では利用されず、PC、スマホと繋(つな)がるため、企業にとってこれらがパッケージで販売され、サポートを受けられることに対する需要は高い。

 かつて経営危機に瀕(ひん)していたシャープが復活の兆しを見せている背景には、鴻海流の低コスト体質への変革と幹部の意思決定の早さがあるだろう。シャープは鴻海の傘下となった直後に、100万円を超える案件は全て社長が決裁を行う仕組みに変え、徹底的な低コスト化を進めた。

 他にも、鴻海と共同出資していた堺ディスプレイプロダクト(SDP)の経営状況が悪化すると、鴻海がSDPを子会社化してシャープの出資比率を下げ、シャープが被る損失を軽減するなど、組織のスリム化が進んだ。鴻海の傘下となった後、わずか2年程度で低コスト体質へ組織が変革し、経営状況が改善したという事実は評価できる。

 ただし、シャープが順風満帆というわけでもない。今出ている成果はコスト削減効果によるところが大きく、長期的な存続のためには画期的な製品を開発するような、無から有を生み出す力が必要だ。

 シャープでは2000年代後半頃まで、全社横断的に人材を結集して短期間で商品開発を進める社長直轄の「緊急プロジェクト」という仕組みが機能していた。古くは液晶電卓から始まり液晶テレビ「アクオス」に至るまで、様々なヒット商品を生み出した。

 その後、世界市場を見誤って業績が悪化し、プロジェクトも影を潜めたが、こうした取り組みは、選抜された従業員のモチベーション向上に加え、異なる技術の掛け合わせで新たな価値を創造できる可能性があり、まさに今のシャープに必要なことである。
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2018年8月号より

 

 

 

 

 


新着記事

»もっと見る