2024年4月29日(月)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2018年6月26日

  6月1日、東芝メモリは米投資ファンド・ベインキャピタルを中心とした日米韓連合に売却された。最大の稼ぎ頭であるメモリ事業を失った東芝の未来を懸念する声が多いが、売却された東芝メモリにも課題が山積している。懸念材料は大きく三つに分けられるだろう。

(iStock.com/Gearstd/Tomacco/gintas77/Mittudomen)
 
 
 

 一つ目が収益性の問題だ。半導体の階層は、CPU→DRAM→ニューメモリ→NANDに分かれ、順に処理速度は遅く、容量は大きく、価格は安くなる。また、それぞれが単体で使われることはない。東芝メモリはNANDしか手がけておらず、DRAMやニューメモリまで含めたシステム全体で製品をサポートできる韓国サムスン電子や米マイクロンなどの同業他社とは違う。いわば部品屋であり、製品が買い叩(たた)かれやすい。

 さらに、米アップルやデル、キングストン・テクノロジーなどの出資元に対しては低価格で製品を販売している。

 東芝のメモリ事業の年間利益は約4000億円で日本企業の中では高いと思われるかもしれないが、ライバルのマイクロンは四半期利益で約3000億円あり、世界市場で見れば競争力は低い。収益性を高めるには、DRAMやニューメモリまで事業領域を広げ、出資元以外の顧客に、いかに高価格で販売していくかの検討を急がねばならない。

 また、主要な顧客である中国とのビジネスも見直す必要がある。中国の大手電機メーカー等に半導体を販売する際、現在は商社を通しているため中間マージンが発生している。これは利益率を下げている大きな要因だ。東芝メモリは中国に約200人の従業員が駐在しており、直接取引をする各国の競合他社のように、顧客と直接関係性を築くことは十分に可能だろう。

 二つ目は資金調達の問題だ。今後3年間で少なくとも2兆円を要するであろう設備投資に加え、開発資金も必要となる。顧客に出資を求めれば販売価格の下げ圧力がかかるため、銀行借り入れしかなく、経営が圧迫される。この状況を打開する一つの方法として、新市場へ進出し、DRAMを開発しようとしている企業と提携して相互補完することは検討に値するだろう。

 そして三つ目は組織体制の問題だ。現在では、設計、R&D、プロセス開発が別組織で進められている。私がCEOを務めたエルピーダメモリという比較的小さな企業でさえ、上記の各部門を効率的に機能させるのは大変だった。毎日、トップである私と各部門のエンジニアたちで30分間のテレビ会議を行い、新製品の開発状況や課題を共有し、即断即決で開発を進めた。東芝メモリの組織の壁を壊し、効果的に機能させるには相当の労力を要するだろう。

 これらの課題は、東芝という大企業で築かれた過去のしがらみがあっては到底解決できない。業界トップのサムスンには技術面ですでに1年後れている。新組織となったこのタイミングでこそ、スピード感ある判断を下せる体制に変革しなければならない。
 

  
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◆Wedge2018年7月号より

 

 


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