2024年4月30日(火)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2018年6月15日

 安全保障を理由にトランプ政権が進める保護主義政策。その波は、成長著しい半導体業界にも及び始めている。

 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と関係性が強いとされる、半導体大手ブロードコムによる米クアルコムの約14兆円に及ぶ買収計画に対し、今年3月にトランプ大統領が安全保障を理由に禁止を命じたことがニュースになった。

(iStock.com/wildpixel)

 業界の消息筋によると、企業の買収や提携にも影響が出ているといった話は他にもある。例えば、米インテルと中国・紫光集団との提携交渉に関する話だ。インテルは今年1月、米マイクロンとの三次元NANDフラッシュメモリの共同開発解消を発表した。これは紫光集団との提携に向けた布石と見られているが、その提携交渉が暗礁に乗り上げるのではないかと見られている。

 インテルの提携の狙いは、データセンターなどに必要なCPUやDRAM、NANDの開発・生産を自社でリードし、メモリの市場価格を下げることにあると考えられる。

 アイフォンXの売れゆきが芳しくないのも、使われているメモリが高額なことが大きいだろう。仮にこの提携が実現すれば、アップルだけでなく内蔵部品を製作する企業も大きくシェアを拡大し、新たな技術開発も可能になるかもしれない。

 時価総額で世界1位となったアップルでさえ、電子機器生産を中国で請け負う台湾・フォックスコンの存在がなければここまで大きく成長することはできなかった。もちろん安全保障上の問題に留意する必要もあるが、保護主義は一方で自国産業の発展に水を差すことになるのも事実だ。

 米国が保護主義を強める中、中国のある消息筋によれば、中国が国を挙げて驚きの対策を打ち始めているという。政府がコスト度外視でメモリの生産を企業に促し、コストが価格を上回った場合には差額を補填(ほてん)するという政策を行うようだ。

 また、中国は電気自動車の普及に伴い需要が高まるディスクリート半導体(電源の省エネや省スペースに寄与する1つの機能のみを備えた単純な半導体)の開発・生産も狙っており、米国に頼らず独自で競争力のある半導体生産に走り出しているようだ。

 一方、日本の半導体産業は、グローバルでの共同研究・開発や事業のアウトソーシングも、他の先進国と比較すればまだまだ進んでいない段階にある。国内での事業がメインとなっており、産業競争力が弱まっている。

 世界に目を向ければ、ベトナムやフィリピン、インドネシアなど、これまで注目を浴びなかった地域で半導体を要するマーケットが急速に拡大し、チャンスは広がっている。米中が内向き志向に走る中、両国と違い国内マーケットが小さい日本は新しいマーケットへの生産拠点の移設、現地企業とのジョイントベンチャーの創設など、事業を国外に拡大させていくべきだ。
 

  
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◆Wedge2018年6月号より


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