オトナの教養 週末の一冊

2019年6月21日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――失敗が許されない、レールから一度外れると戻れない社会というのは身をもってわかります。海外に目を向けると、シリコンバレーなどではスタートアップの失敗の経験がむしろプラスに働くこともありますね。

入山:イスラエルもベンチャー企業が盛んな国で、成功と失敗を同じく「1」と数えるそうです。つまり、3回成功した人も、3回失敗した人もどちらも3回チャレンジしたとみなされるそうです。

 日本でも若い方々を中心としたベンチャー界隈では、少しずつそういった感覚に変わってきている印象です。

――イノベーションが起きない理由は他にもありますか?

入山:大企業では、経営者の任期が短い点も問題です。海外のグローバル企業のトップの任期は10年以上が当たり前です。日本の経営者は、任期が短いためどうしても目先の収益に囚われ、短期的な思考に陥り「深化」に目が行ってしまう。

 「探索」は長期的な視点に立ち、遠く幅広く見なければならないのに失敗することも多い。でも、そうしなければイノベーションは起きません。10~20年、下手をすれば50年単位で物事を見る必要があります。経営者の任期が長ければ、中長期的なヴィジョンを掲げ、全社員がそこを向けばイノベーションが起きやすい環境になります。統計分析をして見ると、上場企業について言えば、一般的に経営者の任期が比較的長い同族企業の方が比較的業績が良い傾向があります。これは同族の方が結局は長期視点で物事が見れるからでしょう。

 また、日本では大手企業で本来ならば倒産してもおかしくない企業が潰れない。ベンチャー企業の人たちが一生懸命に働くのは、潰れたら自分も職を失うからです。大手企業の社員は、経営が危うくても潰れない生ぬるい環境にいるから能力を持て余している。

 結局、イノベーションを起こすには「探索」をすれば良いだけでなく、教育システムから雇用慣行、ダイバシティなどを含め、少しずつ日本の社会システムそのものを変化させていかなければなりません。

――逆に日本でイノベーションを起こしている企業の特徴はありますか?

入山:地方はさまざまな課題が山積みですから、地方発で事業承継に成功した中小企業はすごく面白いですね。たとえば、福井県鯖江市の西村金属。眼鏡の生産で有名な鯖江の同社は、チタン製の眼鏡の蝶番を生産していました。しかし、眼鏡の市場は中国企業の台頭で非常に苦しい。そこで「ペーパーグラス」というチタン製の薄さ2mmの老眼鏡を作り始めました。老眼鏡は、必要なときだけ使うので持ち運びが便利なほうが良い。薄さ2ミリだと胸ポケットにも入りますし、本のシオリとしても役立つ。こうした利便性がウケ、海外に期間限定ショップを出すほどです。

 また、秋田県の新政酒造は原料の米はもちろんのこと、木樽に使用する木も秋田産ととことん秋田産にこだわっています。それだけにとどまらず、カリフォルニアのナパバレーでワイナリーを巡るツアーを参考に、日本酒のテーマパークをつくることまで考えているそうです。

――これまでのお話を聞くと、本書を都市部の大企業で働く方々におすすめしたいですか?

入山:そうですね。決してトリッキーな経営戦略が書いてあるわけではありませんが、日本では決定的に欠けている部分が書かれているので、ビジネスパーソンや政府関係者にはぜひ幅広く読んでもらいたいですね。

 また事例が豊富なので、同じような状況下で悩んでいる企業の方々にも参考になると思います。

  
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