こうして、マーストリヒト条約で定めた通貨統合では、実質的にドイツだけが主導する通貨統合にはならなかった一方、独立性が保証されたECBを設立し、通貨統合には厳しい参加条件をクリアした国だけが先行して参加するツー・トラック方式となるなど、ドイツの意向を受け入れたものとなったのである。
現在のユーロ圏はこのような歴史的経緯を受け継いでいる。したがって、ECBの財政不介入はユーロ圏の根底にある考え方であり、ドイツの考え方が根本的に変化しないかぎり、今回のような危機でもEUの対応は、ECBが金融システム維持に最大限注力するとともに、各国が財政規律を高めるという選択肢しかありえない。
債務危機収束はいまのやり方で図られる
欧州債務危機を抜本的に収束させる方策はいくつか考えられる。たとえば、通貨は単一なのに財政が統合していないのが今回の危機を招いたことから、ユーロ共同債の発行などを契機として一気に財政統合を図っていくのが一案だ。あるいは、ユーロ圏の存続を危うくしかねないギリシャなどの債務危機国をユーロ圏から離脱させることもアイデアとしてはある。さらに、ユーロ圏は解体する以外にないとの厳しい見方もある。
そこまで行かなくとも、債務危機の今後の展開に予断は許されない。4月にかけてイタリア、スペインなどの政府の多額の資金調達が続くこともあり、市場は大胆かつ抜本的なハードランディング策を求めつづけることとなろう。
しかし、ハードランディング的な抜本策は、魅力的に見えても、実施は容易ではなく、常に正しい対策とも限らない。日本のかつての不良債権問題が厳しかった折にも、債務が過大な企業を一気に整理すべきとのハードランディング論があったが、当時大きな債務を抱えていた企業の多くが潰れることなく現在立派に立ち直っていることを見ると、景気や雇用までも大幅に悪化させる大胆な企業整理策だけが正しかったようには見えない。
もちろん、最終的なギリシャの財政健全化が、GDPの1/3とも言われてきた税金を払わないヤミ経済の解消、他の主要国に比べてあまりに恵まれていた年金制度の抜本改革、さらなる大幅増税など国民の厳しい自己規律と自助努力によってしか達成しえないことを勘案すると、いまのやり方ではユーロ圏の安定が早期に実現されることにはなるまい。
だが現実には、ドイツの考え方が180度変化でもしないかぎり、ユーロ圏を維持する中で事態収束を図る試みがぎりぎりまでなされることは確実だ。しかもそのやり方は、ECBと参加各国の役割分担を強化する方向にしかない。まさに11年12月のEU首脳会議で決められた方策で、ECBが一段と流動性を供給するなどして金融システムを支え、各国が一段と厳しい財政規律を守るやり方だ。
さいわい、危機収拾策は充実しつつあり、今年7月には欧州版IMFといわれるESMも発足する。欧州債務危機について、市場からの視点は重要だが、事態をバランスよく見極めるには、EUの考え方を踏まえることも欠いてはならない。
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