中学校でしか通用しない文化は変えるべき
「学習者本位」であることを重視するのはなぜか。北澤氏はその背景として「中学校には自分で選択し、判断する場面が少なかった」と指摘する。
「従来の中学校には、生徒に対して『言われたことを言われた通りやれ』と求めてきた側面があります。この文化は、中学校でしか通用しないように思うんです。言われたことを言われた通りやるというのは、思考を停止して、自分で選択したり判断したりしなくても済むということでもありますよね。
しかし世の中に出て必要になるのは、自分のスケジュールを自分で決めて管理する力であり、必要に応じて自発的に相談相手を見つける力でしょう。教員は生徒がこうした力を身につけられるように支援するべきです。相談には乗る、だけどあなたの人生はあなたが決めるんだよ、と」
東部中学校の教員にこうした考えを伝え、学年担任制を導入する案を話したときには、少なからず不安の声も出たという。「校長は麹町中へ行って工藤校長の話を聞いているからイメージが湧くのかもしれない。自分たちも視察したい」とも。そこで北澤氏は麹町中学校へ第二弾の視察を依頼。3人の教員が東京へ行き、麹町中学校の教員に全員担任制などの実際の取り組みを聞き、その現場を見た。
こうして動き始めた東部中学校の学年担任制では、従来の学級固定担任を廃止したうえで、教員の役割を3つに分けて学年担当全員で生徒と関わっている。3つの役割とは、生徒のSOSをいち早く察知する「いじめ対策、人間関係づくり」、生徒主体の学習をサポートする「授業改善、学力向上」、生徒会活動などを支える「日常生活向上、自治力向上」だ。
同校は1学年6学級。それぞれ10人ずつ教員を配置し、学年主任が「誰にどの役割を任せるか」を校長と相談しながら決めている。教員の担当分野は生徒や保護者に明確に示し、自由に相談相手を選べるようにした。若手の教員には少しずつ仕事を任せていく。教員1年目からいきなり学級担任を任されて忙殺されるようなことはないという。