2024年11月21日(木)

公立中学が挑む教育改革

2019年8月27日

生徒それぞれの目標に準拠した評価をつける、教員と学校の責任

 長野県の中学校には「白文帳」という伝統がある。同県出身の人なら懐かしく思い出されるのではないだろうか。中学生の漢字練習帳として県内に普及し、宿題として提出させることが伝統となっているのだ。白文帳は戦前から使われているということだから、その歴史は80年におよぶ。東部中学校では他にも、数学などの家庭学習として日々集める「提出ノート」を生徒に課していた。

 北澤氏は「授業改善、学力向上」を担当する教員とともに、こうした慣習を廃止した。

 「実際に提出されたノートを見ると、自分が分かる範囲の問題ばかり取り組んでいて、単なる作業になってしまっている生徒が少なからずいました。家庭学習で本来重要なのは授業の予習・復習です。しかし宿題では、直近の授業と直結していない内容が出されていることもありました。白文帳も提出ノートも、『やっつけ仕事』になっていたんです」

 そこで、午後の学活の時間に10分間の「プランニングタイム」を設け、その日の家庭学習で何に取り組むか、生徒自身が計画できるようにした。家庭学習の対象は国語・英語・数学だけでなく、理科や社会、音楽、美術などに取り組む生徒もいる。また、取り組んだ内容は教員に提出するだけではなく、生徒同士でもシェアする。

 こうした取り組みについて、月に1回のアンケートを取って生徒の反応を確認している。現在は「自分でプランニングできる自主学習のほうがいい」という生徒が圧倒的に多い。

 「実際に始めてみると、生徒は面白がって互いの学習内容をシェアしていますよ。友だちからアドバイスをもらって内容を見直す生徒もいます」

廊下に貼りだされていた、自主学習の方法を共有する掲示板 写真を拡大

 興味深いのは生徒の反応だけではない。保護者からも前向きな声が寄せられるようになった。「子どもが朝一番から勉強するようになった」「以前の宿題では『早くやりなさい』としか声をかけられなかったけど、今は学校でプランニングしてきているから『どうやって勉強を進めるの?』と聞けるようになった」とも。

 ただ保護者の視点に立てば、どうしても気になるのが成績評価だ。一律に課される宿題などがあれば、集団の中で「勉強ができるのか、できないのか」が分かりやすい。子どもが自分自身で学習内容を考えるようになったとき、正しい勉強ができているかをどう判断すればいいのだろうか――。

 北澤氏はその問いに対して「大切なのは“目標に準拠した評価”だ」と指摘する。集団の中での相対評価を気にするのではなく、生徒それぞれの目標に対して絶対評価をつけていくべきなのだと。これは現在の学習指導要領にも明記されている。大人にも伝わりやすい例として、北澤氏は自動車学校の仕組みを挙げる。

 「自動車学校で運転技術を学ぶためには、縦列駐車やS字クランクなどの課題を一人ひとりがクリアしていかなければいけません。そこには『みんなと比べて、まぁ上手にできているよね』という相対評価は存在しないし、競い合う必要もありません。人より早くクリアする人がいても不公平ではないし、遅れを取っている人はその人なりに練習を繰り返せばいい。

 学校教育においても、できるものを『君はできる』と認めてあげることに問題はないはずです。そして、できないところは必死でカバーし、できるようにしていくべき。その過程には大きな意味があります。できない生徒にどこまで関われるか。そこにも教員や学校の責任が問われています」

 年度末、学年の終わりになってから「おたくのお子さんはできませんでしたね」で終わるようでは、教員として、学校としての説明責任を果たせているとは言えない。そんな思いから、東部中学校では従来よりも保護者面談の機会を増やしているという。


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