値段やデザインだけでなく、「作り手の想い」に共感して買う人がいる。そんな仲間づくりを通じて「ファクトリエ」は日本の技術を未来に残そうとしている。
値段やデザインだけでなく、「作り手の想い」に共感して買う人がいる。そんな仲間づくりを通じて「ファクトリエ」は日本の技術を未来に残そうとしている。
「30年後、自立する工場が増えていれば、日本の素晴らしいモノづくりの技術は間違いなく生き残っています」
世界が認める日本の工場とあなたをつなぐというコンセプトで、「Factelier(ファクトリエ)」を運営する「ライフスタイルアクセント」の創業者兼CEO(最高経営責任者)の山田敏夫は、そう言ってさわやかな笑顔を見せた。
大手の洋服メーカーからの仕事を請け負う各地の縫製工場は、安い海外工場との競争で低価格での納品に追われ、社員の平均年収が200万円を切るところもある。世界的に通用する技術を持ちながら、きちんとした価格で売る術(すべ)がないことが原因だ。
そんな工場を回ってファクトリエとの取引をもちかけ、工場が儲かる「言い値」で仕入れる。それを「作り手の想い」に共感してくれるファクトリエの顧客に売るのだ。中間流通を排除して工場から直接仕入れるため、工場もファクトリエもともに利益を得られるという、ビジネスモデルだ。
山田は2012年の創業以来、これまでに670以上の工場を回り、今では55の工場と契約するまでになった。
「だいたい工場の生産の2割が当社向けに変われば、利益が大きく改善して工場が自立できるようになります」
決してファクトリエのモデルがアパレル業界のメジャーになることはない、ということは熊本の洋品店に生まれ育った山田には痛いほど分かる。ZARAやH&M、ユニクロなど〝ファストファッション〟とトレンド(流行)や経済性(コスト)だけで戦うのは難しい。だが、顧客の中には、値段やデザインだけではなく、「作り手の想い」で買いたい人がいるはずだ。いや、むしろ便利になった今の時代だからこそ、そうした顧客を満足させる「本物」が求められているのではないか。
55の工場経営者を山田は「革命の同志のような存在」だと言う。創意工夫で価値を創造し、それをきちんとした価格で売っていく。流行を追い、大量の在庫処分を繰り返すのが常態化しているアパレル業界の常識に抵抗し続けているからだ。
各地の工場も、昔、ひと財産を築くことができたアパレル全盛期の世代から、二代目三代目に変わりつつある。「現状維持では衰退が目に見えているアパレル業界で、新しい挑戦をする若手が増えている」と、そうした工場を応援することがメイド・イン・ジャパンの「本物」を残すことにつながると信じている。
だから、ファクトリエを卒業して自社ブランドで自立する工場があってもいいのだという。ファクトリエをメジャーにするのではなく、ファクトリエの考え方をメジャーにしたい─。
それが、山田が創業以来一貫して追求していることなのである。
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