2022年12月4日(日)

名門校、未来への学び

2019年9月18日

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鈴木隆祐 (すずき・りゅうすけ)

ジャーナリスト

1966年長野県生まれ。法政大学文学部在学中より出版社で雑誌編集を始め、その後フリーに。著書に『名門高校人脈』(光文社新書)、『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)ほか。

 部活も生徒が自主的に行い、顧問も滅多に来ない。内田さんはサッカーをやりたかったが、入学当初に身体を壊したために写真部に入った。何が撮りたいかというより、そこは秋葉原通いもしていただけあって、カメラをいじったり、「現像とか焼き付けという作業」自体が楽しかったという。

 「男子校で女子生徒をモデルにもできないしね(笑)。教駒には尺八部があって、お隣の都立駒場高校の箏曲部の女生徒と合奏しているのが、妙に羨ましく見えましたっけ。また敷地を接していた駒場東邦(駒東)とは、境界の壁に穴が空いていて、お互い出入り自由でした。別に交流はないんだけど、勝手にあちらを探検したもんです」

 駒東にはある制服が、教駒にはない(正確に言うと教駒にも制服はあったが、誰も着ていなかった)。双方でバレバレな気がするが、特にお咎めもなかったとか。本当に寛容な時代だったようだ。

麻布には近く、開成、灘とは違う

駒場野公園内に、筑駒が所有する「ケルネル田圃」。早大が主宰する講座「大隈塾」の講師も務めてきた内田さんだが、そこでも、偶然受講生同士の親睦を図ると同時に、日本の農業問題にも触れさせる意図で、春の田植えと秋の稲刈りを年2回ずっと行っていたのも何かの縁かもしれない

 「私立では麻布に圧倒的に近いんじゃないかな。東大では開成とか灘などは、やはり校風の違いからか別のグループになるけど、麻布出身の連中とはものすごく仲よくなりました。

 当時の仲間とも大変な仲のよさで、同窓会も以前は2年に1回だったのが、今はみんながほとんど退職したこともあり、1年に1回おこなっている。80人くらい集まりますよ。僕は残念ながら参加できなかったが、こないだも泊まりがけのゴルフ合宿に、20何人が集まったみたい」

 写真部員として能登半島に撮影旅行に出て、文化祭で展示もしたが、正直さほど活発に活動していたわけではない。一方で勉強していたかというと、同級生は誰もほとんど勉強もしていない。それでは高校時代何をしていたかと問われれば、「ともかく友達と放課後つるんでいたこと」だと、内田さんは言う。

 「今でいう帰宅部ですよ。友達の家に2〜3泊して帰らないなんて普通でした。喫茶店などで話し込むうち、『俺んちに来るか』と高田馬場や中野、高円寺などの友達の家を行き来していました。麻雀もしたけど、そんな間柄の友達が10人もいた。

 ウチの親もそういうのを歓迎するほうで、先日母を亡くしたんですが、友達が10人ぐらいは葬儀にも来てくれて、僕はすっかり忘れちゃってたんだけど、みんな我が家に泊まって、お袋と話したことなんかを楽しそうに話すんです。7〜8年前にそれぞれ奥さん連れで、家に集まったことがあったけど、不思議と我々以上にカミさん同士が意気投合しちゃうんだよ。そんな居心地のよい集団だと言えます。生徒を面接で選ぶならわかるが、ペーパー試験なのに、そんな気心の知れた集団が形成される。結局、教師と学校が人を育て、結果としてそれぞれの生徒の人格を形成していくメカニズムがビルトインされている不思議な学校でした。

 コンサルになったのは33歳と、決して早くないんですが、高校時代を振り返って、『あいつがよくコンサルになれたな』というやつと、『なんとなく分かる』というやつに分かれる。自分では決してお喋りだとも思ってないんだけど、そういう交わりの中で、『あいつの言うことは信用できる』とは、当時から思ってくれていたみたいです」

 積極的に相手の意見に耳を傾け、引き出しを拡げ、相手にもっと話したいと思わせる技術。内田さんは優れた級友との何気ない会話から、そんなコンサルタントとしての基本的なセンスを、巧まずして磨いていたのだ。そして、今の筑駒生を見ていても、その辺りは大きく変わらないのである。

【内田和成プロフィール】
早稲田大学ビジネススクール教授。東京大学工学部卒業後、日本航空を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。1985年ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000 年から2004年までBCG 日本代表を務める。
この間ハイテク、情報通信サービス、自動車業界を中心にマーケティング戦略、新規事業戦略、グローバル戦略の策定、実行支援を数多く経験。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。 2006年早稲田大学教授に就任。主な著書に『右脳思考』『仮説思考』(ともに東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『プロの知的生産術』(PHPビジネス新書)など。

 日本を代表する名門高校はイノベーションの最高のサンプルだ。伝統をバネにして絶えず再生を繰り返している。1世紀にも及ぶ蓄積された教えと学びのスキル、課外活動から生ずるエンパワーメント、校外にも構築される文化資本、なにより輩出する人材の豊富さ…。本物の名門はステータスに奢らず、それらすべてを肥やしに邁進を続ける。

 学校とは単に生徒の学力を担保する場ではない。どうして名門と称される学校は逸材を輩出し続けるのか? Wedge本誌では、連載「名門校、未来への学び」において、名門高校の現在の姿に密着し、その魅力・実力を立体的に伝えている。だから、ここでは登場校のOB・OGに登場願い、当時の思い出や今に繋がるエッセンスを語ってもらおう。発売中の月刊誌Wedge9月号では、現在の筑波大学附属駒場高等学校の水田学習と農芸部の取り組みを掲載しています。

  
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