2024年11月25日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2019年9月26日

適切な育休期間、男性の育休に必要なことは

――では、育児に関する制度を導入するにあたって企業が意識すべきことは。

山口:育児休職期間について、あまりに長いと逆効果となる恐れがあります。日本の育休制度は職場復帰を前提としていますが、休んでいる期間が長いと復帰に対する不安感や抵抗感が膨らみます。職場復帰が遅れれば、これまでのキャリアで培った専門的な知見や技術が時代遅れになったり、人脈が失われてしまったりといった弊害も発生するでしょう。また、会社制度として育休3年制が導入されていても、育児休業給付金がもらえる期間は1年です。育休2年目以降に家計が落ち込むことを考えれば、休職期間は『1年』が適切だと思います。企業はむしろ、テレワークやフレックスの導入など、休職期間1年で職場復帰しても子育てと仕事の両立をしやすい職場環境を整えるべきだと思います。

――男性の育児休職の導入が進んでいるが。

山口:男性が育児に関わることは子育てにとって重要な意味を持ちます。今の社会は価値観も変化していて、男性であってもライフステージとして「子育ての実感が欲しい」という方は増えているので、企業がそれを可能にすることは、優秀な人材の確保にもつながる。男性の育児休職取得を普及させるためには、ただ制度を作るだけでなく、「男性が育休制度を利用しても昇進や評価に影響しない」という事実を作り、広報誌などを通じて会社全体へ周知していくことが大切です。ただし、男性への「育休義務化」については避けるべきでしょう。国として重要とすべきことは、男性が一律に育休を取得することではなく、男女ともに、子育てをしながら働くうえでの「選択肢」を増やすことなのです。

――子育て支援のために、政府はどのような施策をとるべきでしょうか。

山口:まずやるべきことは、待機児童問題の解消です。そのために保育施設の増設と保育士の増員を目指すべきでしょう。今は供給が追い付いていないので、そこに国を挙げて支援すべき。保育園に預けられない子どもが増えていることを考慮して育児休業給付金の給付期間を現行の1年から2年に延ばすという考えも緊急措置としてはあってもいいかもしれません。ただ、育児休業給付金は育児休業前の賃金に応じて給付額が決まるため、所得の高い労働者がより優遇される仕組みです。保育については、貧しい子供にも等しく一定水準の教育が行き届くことが大切です。「保育の無償化」という考えもありますが、ある程度保育料金を支払い、税金と併せて保育施設や保育士の供給増に財源を充てていくべきです。

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