海野素央の Love Trumps Hate

2019年10月4日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

ペロシの賭け

 次に弾劾調査を正式に発表したペロシ下院議長にとって、ウクライナ疑惑は有利に働くのかをみていきます。

 ペロシ下院議長は中道穏健派と急進左派に分裂している民主党に、「トランプ弾劾」という共通目的を持たせることによって、党内の統一を狙ったフシがあります。加えて、「ウクライナ疑惑」は「ロシア疑惑」と異なり、米国民に安易に理解できるので、支持を得られる可能性が高いといえます。

 2016年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシア政府との共謀ないし同大統領の司法妨害に関するロシア疑惑を捜査したロバート・モラー元特別検察官は、捜査結果を最終報告書にまとめました。この報告書のページ数は400ページ以上におよびます。

 一方、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の通話記録はわずか5ページで、内部告発状は9ページです。特に、通話記録は一度目を通せば、米国民は容易に把握できます。

 実際、米公共ラジオ(NPR)、公共放送(PBS)及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)による共同世論調査(9月25日実施)では、「トランプ弾劾賛成」が49%で、4月の同調査と比べ10ポイントもアップしました。一方、「トランプ弾劾反対」は46%で拮抗しているのですが、4月の同調査と比較すると7ポイント減少しています。明らかに、世論に変化の兆候を見ることができます。

 ただペロシ下院議長にとってトランプ弾劾調査は、リスクが非常に高いといえます。同共同世論調査では、共和党支持者の93%がトランプ弾劾調査に反対しています。この数字が大幅に減少しない限り、上院で弾劾裁判が開催されても3分の2の賛成票を獲得するのは極めて困難です。

 仮にトランプ弾劾に失敗すれば、本選で民主党大統領候補はトランプ大統領に対して不利な選挙戦を強いられる可能性があります。これは大きなマイナス要因になります。

 昨年の米中間選挙で民主党下院はトランプ弾劾ではなく、医療保険制度改革や気候変動などの争点に焦点を当てて、過半数奪還に成功しました。にもかかわらず、ペロシ下院議長は弾劾に時間とエネルギーを割く戦略に大転換しました。

 上で紹介した米公共ラジオ、公共放送及びマリスト大学の共同世論調査では、約7割が「下院のトランプ弾劾調査のニュースを追いかけている」と回答し、弾劾調査への関心の高さを物語っています。今後米国民は、民主党候補テレビ討論会よりも米議会によるトランプ弾劾調査に注目することなります。ペロシ氏は大きな賭けに出ました。 

関連記事

新着記事

»もっと見る