2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年10月17日

米国人はどうみているのか?

 米公共テレビ、公共放送及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)の共同世論調査(10月3-8日実施)によれば、民主党主導の弾劾捜査に対する支持は52%で、9月の同調査と比較すると3ポイント増えました。一方、不支持は43%で3ポイント減っています。世論は民主党に傾き始めました。

 「大統領が外国のリーダーに潜在的な政敵を調査するように要請することは容認できると思うか」という質問に対して、約7割が「容認できない」と回答しました。トランプ大統領の支持基盤である高卒の白人男性も52%が「容認できない」と答えています。外国政府による選挙介入に関しては、支持者も厳しい目を向けていることが分かります。

 さらにトランプ大統領とゼレンスキー大統領との電話会談について、約3割がトランプ氏が「国益を重視した」と捉えているに対して、約6割が「再選のための自己の利益を重視した」とみています。こちらも同氏にとって否定的な結果が出ています。

 ただし、トランプ大統領の将来は37%が「弾劾で決まるべき」と回答したのに対して、58%が「選挙で決まるべき」と答えており、有権者は弾劾よりも選挙に重点を置いています。この点は同大統領にとって良いニュースといえます。

新たな動作と取引の可能性

 トランプ大統領は支持者を集めた集会で、バイデン親子及び民主党主導の弾劾調査について語るとき、これまでにない動作をするようになりました。演台を右手で叩くのです。その音がマイクに入ります。米国史上3人目の弾劾訴追された大統領になる可能性が高いトランプ氏は、罷免を免れようと必死になって支持者を鼓舞しています。

 トランプ大統領は弾劾訴追権のある下院で弾劾決議が成立しても、弾劾裁判権のある上院で罷免が否決され、再選を果たせば汚名を返上できるかもしれません。このシナリオを実現するには、民主党候補指名争いの段階でバイデン氏を引きずり下ろし、組し易いエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・東部マサチューセッツ州)と対戦する必要があります。あるいは、バイデン氏をかなり傷つけ弱らせてから本選で同氏と勝負する戦略もあり得ます。

 ウクライナに加えて、トランプ大統領はバイデン親子に関する汚職調査を中国にも要請することを検討すると、ホワイトハウス記者団に語りました。「調査するかしないかは、中国次第だ」とも述べました。

 今回の米中通商合意は、中国が米国産農産物購入を拡大する代わりに、米国は15日に発動予定であった中国からの輸入製品への追加関税を見送るというものです。「第1段階」の通商合意に達したと発表したトランプ大統領は、ホワイトハウス記者団からの質問に対して「中国(の劉鶴副首相)との会談でジョー・バイデンについて話し合わなかった」と答えました。

 しかしトランプ氏ならば、中国によるバイデン親子の汚職調査の見返りに、中国との「第1段階」の通商合意があったとしてもまったく不思議ではありません。あるいは、バイデン親子の調査と「第2段階」の通商合意との取引も可能です。

 トランプ大統領の「柔軟性のある取引」とは、正にこのような取引を指しているのでしょう。いずれにしても、罷免を回避し、再選を果たすために、トランプ大統領はありとあらゆる手段を講じることだけは間違いありません。

  
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