2024年7月15日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年4月11日

 内外の研究者らが、胡錦濤時代の国家統治の特徴を枠組み化したものが「中国モデル」であり、胡錦濤自らがこれを喧伝することはない。一方、「重慶モデル」についてはその核心である「唱紅打黒」や「共同富裕」は薄によって高々と宣伝されたため注目を浴びた。ただ「中身は五十歩百歩」(前出・学者)だ。

共産党を二分するかもしれない「危険な賭け」

 一部の人たちが先に豊かになり、いわば格差社会を許容した論理とされる鄧小平の「先富論」。「共同富裕」を唱える薄熙来はこれを否定し、「社会主義の最大の優越性は共同富裕であり、これは社会主義の本質を体現したものだ」と主張している。その結果として薄は重慶で貧困層から絶大な支持を得たが、彼を否定することは「平等や公平を基礎とする社会主義の正統性を否定するものではないか」(北京の大学教授)という声が出ているのも事実である。

 「ここで注目しなければならないことは何か」と筆者に切り出した中国人研究者はこう解説してくれた。

 「結局、政治局常務委員が薄熙来解任でまとまっても、政治体制改革の推進を声高に訴えるのは温家宝だけということだ」

 何よりバランスを重視する指導者である胡錦濤も習近平も、改革を阻む既得権益層(「権貴階層」)を打破する勇気はない。共産党そのものが既得権益層として重くのしかかっているにもかからず、これを放置する選択肢しか持っていないようである。

 唯一の例外とされる温家宝さえも実は、既得権益層の「象徴」だと知る国民も多い。息子・温雲松は最近、「中国衛星通信集団」という巨大国有企業の会長に就任。めったに公に姿を見せない夫人は宝石商として悪名が高い。

 「薄熙来は実は、平等・公平という社会主義の本来の姿を取り戻そうとした『改革派』であり、演説もうまく、人気も実行力もある。温首相も含めた胡錦濤指導部にすれば、指導部の安定を損なう厄介な存在とみなして切り捨てた結果だろう」と解説するのは、北京の有名大学教授だ。

 抗日戦争、新中国建国、文革……。共産党の苦難と栄光、挫折を経験した薄一家を支持する幅広い長老、幹部、庶民がいることを胡錦濤も習近平も熟知している。薄熙来をさらに追及することは、共産党を二分してしまいかねない「危険な賭け」であるが、既に薄の政治生命は完全に絶たれ、一心同体だった妻・谷開来も英国人実業家殺害に関わった疑いで送致されるなど「華麗なる一族」として知られた薄一家は転落してしまった。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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