中国重慶市トップだった薄熙来前共産党委員会書記の完全失脚が10日夜、確定した。共産党中央は薄氏を政治局員からも事実上解任し、党中央規律検査委員会が重大な規律違反で本格調査に乗り出した。日本では「胡錦濤国家主席率いる『共産主義青年団(共青団)』と薄熙来ら高級幹部子弟グループ『太子党』の対立だ」「共青団の勝利だ」という見方が流布しているが、そう単純な構図ではない。過去30数年間にわたり国家の行方を決めた「改革」に関し、今後、政治体制にまで踏み切るのか、またはその方向性を放棄し、毛沢東時代に逆戻りするのか――。薄熙来事件の結末次第で、中国はどこに向かうのか、決まるという重大な意味を持っているのだ。
「胡・温・習」主導で進んだ薄の解任劇
筆者が北京で複数の共産党関係者に取材したところによると、今回の解任劇を主導したのは、胡錦濤主席、温家宝首相、そして次期最高指導者としての地位が確定している習近平国家副主席のラインだ。一方、薄熙来と緊密な周永康党中央政法委書記は解任に消極的だった。
習は、薄と同じく父親が革命第一世代の高級幹部である「太子党」に属する。日本では太子党について、同じ利益を代表する一つの派閥のようにとらえられがちだが、これは大きな誤解である。トップの胡錦濤の下、縦のラインで団結する共青団に比べ、太子党の規模は大きく、親が属したグループや各自の政治路線の違いで人間関係は決して一枚岩ではない。
その証拠に、「習近平は、薄熙来の政治手法に早くから反対し、習は『反薄』を鮮明にしている」と明かすのは共産党関係者だ。
「中国は歴史の十字路にある」
重慶で法律を無視して展開された暴力団一掃キャンペーン「打黒」の問題点を指摘する陳有西弁護士は香港誌でこう解説する。
「中国は30年の改革・開放を経過し、非常に大きな成果を獲得したが、非常に多くの問題も出現した。社会の矛盾は激化し、みんなこれから中国はどこに向かうのか気をもんでいる。戻るのか、進むのか。30年前の文革路線に回帰するのか、それとも(改革・開放への舵を切った)第11期3中全会後の市場経済・政治開明路線を継続するのか。強権の維穏(安定維持)を目的にした圧政か、経済体制改革と政治体制改革を深化させる中で問題を解決するのか。今、歴史の十字路にあり、中国は新たな選択を迫られている」(『陳有西学術網』)
中国で自由派(右派)と呼ばれる知識人らは、西側の自由・民主など普遍的価値を標榜して一党独裁を全面否定。さらに改革を阻む既得権益層を解体し、共産党に集中しすぎる権力構造を見直す政治改革を推進しない限り、今の中国にのしかかる腐敗や格差などの問題は解決しないと主張する。
一方、新左派と呼ばれる知識人らは、行き過ぎた市場経済を追求した改革の結果、平等・公平という社会主義の本質が失われたと批判し、毛沢東時代への郷愁を前面に出している。
言うまでもなく、前者の代表が温家宝であり、後者の旗手が薄熙来である。中国は「毛沢東路線の回帰」か「鄧小平路線の進化」かの分岐点に来ているのだ。