世界的な不況の波に晒されても国内のペットの飼育頭数は2年ぶりに下げ止まりました。飼育頭数が安定すれば、フードの売り上げも安定。また、最近では飼い主からは質の向上を求める声が上がっているため、良いものを作ることが出来れば売れていくのでしょう。2008年には国内初のペットフードの質に関する法令(愛玩動物用飼料の安全性の獲得に関する法律:ペットフード安全法)の規定も完成し、2009年の6月から施行されています。大手のペットフードメーカーには、ペットの食事(栄養学)に対する研究をする施設があります。年々その内容も充実しており、各社のフードの品質向上に貢献しているようです。
ドライフードは何でできている?
法に基づいた安全なペットフードの製造・販売が「ようやく」、この国でも始まったのです。
「ようやく」という言葉を使った理由。まずはペットフード業界の成り立ちから説明する必要があります。
なぜペットフードが開発されたのか。前述のように、人間が気軽に動物を育てるためということに加えて、その開発はさらに人間の都合による側面がありました。
1960年代に犬用のドライフードが作られ始めました。ヒト用としては使えない食材の製品化が目的だったそうです。製造は大手の穀物会社が中心となり、廃棄物処理業者が原料を手配していました。例えば残留農薬が規定以上に残った穀物。ヒト用の食料として流通できないのはもちろん、家畜の飼料としても、人間の口に入る可能性があるため、厳密な規定が設けられているのでこちらへの流用も出来ません。大量の穀物は廃棄するのも経費がかかります。行き着いたのは法的規定のない愛玩動物用の飼料でした。
穀物だけではありません、やはりヒト用としては流通できない家畜の亡骸、解体した残りの部位なども原料として使っています。腐敗しやすく、ペットにとって美味しくない原料を使ったフードは、流通の観点から大量の防腐剤などの添加物や、食いつきを良くするための香料、動物性の油などを塗されてようやく製品となります。使用原料に対しての規制がなかったため、何を使って作っているのか全く分かりません。これまで業界の自主規制の範囲で作られていたフードは、絶対に人間が口にできない内容のものが多かったのです。そのような食事を与えることが、はたして健康に育てることに繋がるのでしょうか?
獣医を「教育」するフードメーカー
さらに、こうした商品を国内で売るためにメーカーが行ったマーケティングは、獣医を「教育」することでした。
獣医師に対して、メーカーは自らの研究所で得た栄養学の知識を与え、その栄養学に基づいて作られたフードの有効性を示し、普及させました。日本の獣医学は、家畜に対しての知識は必須ですが、愛玩動物に対しての知識は卒業後に学びます。現在は小動物についての栄養学を探求している学校も出てきましたが、ほんの数年前までは、メーカーが提示する知識が主流でした。愛玩動物の飼育経験や食事に対する知識の豊富な獣医師は、今でも少数派です。