2024年5月2日(木)

中年留学日記

2012年4月13日

 HBSの授業は主にケース・スタディで、様々な国の発展過程や企業のビジネスモデルなどを詳細にまとめた教材をもとに議論する。ケースは例えば日本の経済なら、過去から国内総生産(GDP)の統計の推移などを盛り込み、それだけで詳細な資料になっている。これを授業の前に読み込んで来ることが求められている。このほか、数学や統計などの基本的な勉強は入学前に自分で済ませてくることになっている。

 勉強は大量のケースや資料の読み込みが必要だが、リーディングの宿題は比較的取り組みやすい一方で、授業での発言は難しい。元からスピーキングが得意な人はいいが、しっかりした内容を発言する必要があるので、しゃべりが苦手な人には厳しい。ライティングも慣れないと厳しい。中間や期末の試験でも、1つの課題に数時間かけて解答するスタイルもあるため、しっかりした英語を書くことが求められる。

 世界最高峰のビジネススクールであるHBSは「資本主義のウエストポイント(陸軍士官学校)」と言われているが、お金一辺倒の教育ばかりではない。企業や経営者がいかに効率よく利益を上げるかということを中心に教えていると思いがちだが、意外にも大学で教授から学生へのメッセージで共通しているのは「家族が一番大事。そこがぶれないようにしなさい」ということだ。各学期の最終授業で多くの教授がこの点を強調するという。

エンロン事件から教訓を学ぶ

 また「やりたいことを先回しにするな」ということも強いメッセージとして学生に伝えられる。多くの人は「今の自分の経験では通じないから、後で起業しよう」と発想しがちだが、「本当にそれでよいのか、先送りする人生計画はやめなさい」と激励する。

 HSBがこうしたメッセージを学生に発信する背景には、2001年に粉飾決算で経営破綻したエンロン事件への反省がある。世界に影響を及ぼした経済事件にHBSの卒業生が深く関わっていたことが批判されたからだ。このため、企業倫理のみに焦点を絞った授業が必修とされるなど、倫理面の教育も重視しているという。

 こうしたこともあり、「人生カネがすべて」というような風潮は教授陣にも学生にも表向きにはほとんど見られない。ビジネス界はもちろん政界、外国政府・企業などに有能なグローバル人材を輩出しているHBSでは、人間として大切なこともしっかり教育されているのだ。

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