2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2019年12月2日

 やっぱり盛り上がらなかった。1日に開催された「福岡国際マラソン」である。「MGCファイナルチャレンジ」と銘打たれ、3人中で残り1枠となった東京五輪の男子マラソン代表の座をつかむためには日本記録(2時間5分50秒)の更新が求められていた。しかしふたを開けてみれば、日本人最高の2位でゴールした藤本拓(トヨタ自動車)は2時間9分36秒で平凡なタイムに終わった。

(Stockbyte/gettyimages)

 もちろん藤本は健闘したと思う。日本記録更新を狙える先頭集団に属しながらハイペースを維持していたが、ペースメーカー不在となった30キロを超えると完全に足が重くなった。2時間7分10秒で優勝した東京五輪モロッコ代表のエルマハジューブ・ダザ(モロッコ)にも大きく引き離され、レース終盤で日本記録更新と五輪代表内定の期待は完全に吹き飛んでいた。

 この結果に日本陸連(日本陸上連盟)でマラソン強化戦略プロジェクトリーダーを務める瀬古利彦氏はやや複雑な表情を見せていた。会見では「藤本は30キロまで果敢に攻めたことは褒めたい」と評しながら、時折「う~ん、何と申しましょうか」と言葉に詰まる場面もみられた。そして「大迫の記録を破る選手が複数出ることを期待している」とも締めていた。

内々では「かなり厳しい」との見方

 日本記録保持者の大迫傑(ナイキ)は昨年9月に東京五輪代表を懸けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」で3位となり、代表内定が事実上で〝保留〟の状況。MGCファイナルチャレンジの福岡国際マラソン、来年3月に行われる東京マラソンとびわ湖毎日マラソンの3レースで日本記録更新者が現れれば、その最速タイムを計上した選手が逆転で残り1枠の代表権をつかむことになっている。しかし現実的に2時間5分台の今の日本記録を破れる流れは期待しにくく、正直に言えば多くの関係者の間でも内々では「かなり厳しい」との見方が圧倒的だ。

 それでも瀬古氏が「大迫は油断できない」と言えば、日本陸連の陸連の尾県貢専務理事も「必ず、タイムを破ってくれることを期待している」と残り2戦となったMGCファイナルチャレンジでの日本記録更新を猛プッシュしている。

 なぜ、ここまで2トップが揃いもそろって〝大迫越え〟を強い口調で訴えて煽りまくるのか。「大迫が代表では嫌なのか」と疑問を感じる人も1人や2人ではないはずだ。日本陸連事情通はこう打ち明ける。

 「瀬古さんにとって大迫君は早稲田大学の後輩。『(MGCファイナルチャレンジに)自分なら出ない』と辞退の勧めもしていることを考えれば、瀬古さんは大迫君が代表切符をつかめば内心それなりに喜ぶだろう。ただ、陸連の中には大迫君にあまりいい印象を持っていない幹部も多い。今年の日本選手権の1万メートルに日本陸連の推薦枠での出場を打診したところ断られたことを受け、ツイッターで基準があいまいだと批判。

 『私物化するのはやめた方がいい』とまでもツイートし、陸連幹部の間には今でも強烈な〝大迫アレルギー〟が残っている。もともと海外を拠点にしていることも古参の幹部は面白くないと感じているところがあり、大迫君を異端児と見る向きが強い。そういう流れもあって〝このまま大迫が代表では困る〟というムードがあるのは残念ながら事実です」

 しかし、いくら日本陸連の内部に〝大迫アレルギー〟があったとしても、残り2戦のMGCファイナルチャレンジで参加者に日本記録更新を求めるのはなかなかの難儀だ。だが、そうは言ってもこのまま山場もなく日本記録保持者でMGC3位の大迫に残り1枠の代表権が与えられそうなムードを醸し出してしまえば、MGCファイナルチャレンジは盛り上がりにかけてしまう。

 だから過剰と言われようが、煽るしかない。〝どうせ無理だろう〟と消化レース的な見方をされ、世間から注目を集められなければMGCファイナルチャレンジに賛同してくれたスポンサーにも示しがつかなくなる――。現場で取材を重ねた中での話を総合すると、こうした不安にも日本陸連側はさいなまれているようだ。まあ「至極当然」と言えば、それはそうである。

 とはいえ、MGCファイナルチャレンジ初戦となった福岡国際マラソンのテレビ中継は盛り上げ方が空回りし、ブーイングが飛び交う皮肉な結末になっていた。中継局は大会主催にも名を連ねた某民放キー局とその系列の地方局。その中継内ではレース中、藤本の日本記録更新がやたらと煽られ、ネット上では「うるさい」と不満のコメントも散見された。さらには「CMが長過ぎて中継が再開されたらレース展開が大きく変わっていた」との声も多かった。

 極めつけはレース後、藤本へのインタビューで「日本人トップ、おめでとうございます!」とインタビューアがマイクを向けたことだ。確かに日本人トップとはいえ、東京五輪代表の座をつかめなかったことから藤本はそう言われ、微妙な心境だったであろう。複数の大会関係者ですら「同じ主催側として盛り上げたい気持ちは分からないでもないが、いくら何でもあの言葉は空気を読めていない」と顔をしかめていたのも頷ける。


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