2024年11月22日(金)

Washington Files

2020年1月6日

 そのひとつは、ビジネス・金融専門のネットメディア「Markets Insider」に掲載された、アメリカの左傾化が不可避とする記事だ(昨年11月2日付)

 その理由として同記事は①拡大する社会的不平等に対する解決策としての左寄り経済政策は不可避であり、それが主流になっていくにつれてこれまで保たれてきた労働者階級とエリート層間の調和が崩れていく②米国内の人種構成が変化し続けており、人種的多様性と社会的リベラリズムが顕著になっていく結果、従来の右翼ポリティクスが衰退していく運命にある③社会的移動性、東西冷戦での勝利によってもたらされたベビーブーマ世代の“黄金時代”とは異なり、その後のミレニアル世代、Z世代そして2010以降に生まれたアルファ世代はグローバルな金融危機、社会移動性の低下、地球温暖化、中国の台頭などの諸問題に直面、その結果として社会全体の左傾化が定着するーーの3点を挙げている。

 英国経済誌「エコノミスト」も、優れた政治動向分析の著者として知られるノースカロライナ大学のジェームズ・スティムソン教授の見解を引用、次のように述べている。

 「教授が1952年以来、毎年実施してきた『国民のムードpublic mood』追跡調査結果によると、自分を“保守的”とみる一般市民の数は今日、“リベラル”を自認する人より多くなっているにもかかわらず、政府に対しては、増税をともなう左寄りの諸政策のほうを保守的政策より支持する傾向がある。この『ビッグガバメント』志向はデータを取り始めた1952年以来、一貫したものであり、左傾化は今、最もめだってきているという。また、別の学術グループ調査によると、一般市民は以前より同性結婚などの社会問題に寛大になる一方、地球温暖化などの環境問題を深刻に受け止め、移民受け入れには前向きな態度を示している・・・世論調査の支持率は大統領によって変動があるが、政策に関してだけ言えば、国民は左傾化しつつあるといえる」(昨年6月15日付) 

 実際に、トランプ政権下においても、どちらかと言えば左寄りの政策が少なからず打ち出されてきた。

 エネルギー革命から取り残され鉱山閉鎖に追い込まれつつある炭鉱労働者の救済措置や、対中国関税戦争で打撃をこうむったトウモロコシ、小麦生産農家に対する数兆円規模の大規模助成金支出などがそれだ。財政赤字もオバマ前民主党政権時よりはるかに拡大しつつあり、まさに「ビッグガバメント」体質を露呈したかたちとなっている。

 トランプ氏は大統領就任前から、前大統領が推し進めた「健康保険制度改革」(オバマケア)の改廃を選挙公約に掲げ、ホワイトハウス入りしてからも、共和党幹部に働きかけ議会での廃案工作に着手したが、大半の国民の支持を得られず、断念せざるを得なかった。

 その後は、大統領自らが景気浮揚策の一環として、本来中立であるべき連邦準備制度理事会(FRB)に繰り返し公定歩合引き下げを要求し、連邦政府職員の有給休暇拡大といった政策を推し進めてきた。こうした最近の動きは「自由主義経済」「小さな政府」を標榜してきた共和党の伝統からは乖離したものであり、どちらかと言えば民主党側の主張に近い。このため、共和党保守派はトランプ批判さえ強めてきた。

 問題は、11月選挙に向けての共和党としての“立ち位置”だ。最近の大統領のスタンスがそうであるように、このまま民主党の主張に引きずられて左傾化していけば、共和党としての“アイデンティティ・クライシス”に陥りかねない。逆に、伝統的共和党路線に立ち返ることになれば、社会プログラムのさらなる充実を求める有権者の支持を失うリスクもある。

 一方で民主党も、各大統領候補がアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員を中心とする若手新人下院議員グループらの突き上げで、「国民医療皆保険」などの急進的スローガンをより前面に押し出すことになれば、中庸を求める同党中産階級の反発を招く結果となりかねない。

 結局、両党ともにそれぞれ今夏開かれる全国党大会で、最終的にどのような「政策綱領」を採択するかが、勝敗を占う重要な試金石となるだろう。

  
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