2024年4月20日(土)

From LA

2020年1月9日

車そのものはなかなか興味深い

 しかしオーシャンという車そのものはなかなか興味深い。ミッドサイズSUVで、価格は3万7499ドル、と定価が4万ドルを切っている。連邦政府とカリフォルニア州のエコカー減税を合わせると2万9999ドル、となんと3万ドルを切る価格なのだ。同クラスのEVとしては最安値である。しかもこの車は条件なしのリース購入も可能で、その場合は月々の価格は379ドル。通常リースは3年程度の期限付きだが、この車は最短1カ月から最高8年までリースできるという。

 なぜこのような「価格破壊」が可能だったのか。フィスカー氏はまず車がリサイクル品を多用していることに言及。例えば車内のカーペットは海から回収された漁のためのプラスチックネットを再生、内装もペットボトルから再生された素材などを使っている。シートもベーガン・レザーと呼ばれる植物を使った合成皮革だ。

 さらにボディ素材は高価なカーボンやアルミではなくスチールで、クロームなど高級とされる素材は一切使っていない。車のフロント部分は「ただのパネル」、つまり開かない。エンジンはEVゆえに存在しないし、他のEVはこのスペースをエキストラのトランクスペースにしているが、オーシャンにはそれもない。

 しかしデザインにはこだわりを見せ、幅広のボディにより安定性を高め、安全性を重視した。また「カリフォルニアモード」と呼ばれる、1つのスイッチですべての窓が全開になる、という機能もある。またルーフ全体がサンルーフだが、全面にソーラーパネルが設置されている。

 さらに、車の販売はすべてアプリを使った顧客へのダイレクト販売で、テスラのようなショップ展開もない。車は顧客の元にダイレクトに届けられる。サービスはフィスカーと契約した修理工場で行われ、保険もダイレクト保険が適用される。フィスカー氏によると保険が高いのは主に部品交換によるもので、フィスカーの車は同社が直接部品を供給するため、通常の保険と比べて2-30%安く提供される、という。修理サービスも通常のディーラーでのサービスなどと比べると半額程度で済むのだそうだ。

 つまりはムダや贅沢をすべて剥ぎ取った車、ということになる。ミニマリズムという点ではテスラモデル3と共通する点もあるが、テスラには高級車の質感があるのに対し、オーシャンはそれも見事に捨て去っている。

 フィスカー氏がかつて作ったカルマは価格が10万ドルを超えるラグジュアリーカーだった。アストン・マーチン出身の同氏は、そのデザイン性をカルマに注ぎ込み、GMの元会長で「カー・ガイ」として知られたボブ・ラッツ氏も惚れ込むほどの美しい車だった。その同じ人物がオーシャンという思い切った安値のEVを作り出したのは、なかなか思い切りが良いとも言える。

 フィスカー氏にカルマとは大分違いますね、と質問すると、「時代はエコ、サステナビリティだよ」との返答だった。カルマはすでに過去、自分は今の時代に沿った新しい車作りをする、という。会見に集まった人々と気軽に写真撮影に応じるなど、以前からは考えられないほど気さくな人になっていたことも驚きだった。

 そのオーシャンだが、同社のウェブサイトで予約金250ドルで予約を受付中なのだが、2021年の発売分はすでに売り切れで、2022年以降のデリバリーになる、という。フィスカー氏の人気は決して衰えていないし、この価格でそれなりの性能であればかなり売れる可能性は十分にある。

 問題は来年のデリバリーが順調に行われ、車に何のトラブルも出ない、ということだろう。カルマがつまづいたのはバッテリーからの発火事故により評判が落ちたことも大きい。まずは米国内、その後ヨーロッパでも販売を開始する、と強気のフィスカー氏、オーシャンで本格的な復帰を果たすことは出来るのだろうか。

  
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