野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2020年1月14日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

香港と同じ「虚構」を押し通す習近平

 香港について、思い起こしてみれば、まったく同じことが起きたのが2019年だった。半年間にわたる激しい抗議行動。香港人の血が流れ、涙も流れ、香港経済も一国二制度の信用も傷ついた。その香港で陣頭指揮をとっていたキャリー・ラム行政長官が中国を訪れた時、習近平・国家主席は「高度な信頼を寄せている」と讃えて見せた。

 香港人はこの光景がテレビで流れた時、中国は香港において「一国二制度はうまく行っている」という虚構を作り上げていることを思い知った。虚構であると中国人も解っていたとしても、習近平氏の周囲で「それは違います」と誰も言わなければ、少なくとも中国国内という閉ざされた空間では一つの現実として受け入れられるのである。だが、そうすることによって、中国と台湾や香港との間の現実における距離は、埋まることはなくなる。今回の台湾選挙でも、さらに中国と台湾の距離は広がった。

 もちろん中国は今後も対策を、経済、軍事、外交のあらゆる面で、講じてくるであろう。経済的には、台湾への締め付けを強める可能性がある。中国人観光客の台湾訪問は蔡英文政権発足前と比べると、すでに人数は半数に近づいているが、ますますその人数が絞られてくるだろう。軍事的には、昨年12月に国産空母「山東」が台湾海峡を通過したが、それ以上の威嚇行為をとってくることもあるだろう。

 外交的にも、台湾の友好国をさらに断交へと切り崩してくる可能性がある。今年4月に習近平・国家主席が訪日するとき、日本に対して、台湾問題で何らかの妥協や発言を求めてくる可能性もある。中国は、自らの実力に自信を持っており、いつか台湾が自分たちに折れてなびいてくるはずだ、という風に考えているので、圧力さえかけ続けていれば時間の問題という認識で一貫している。

 だが、台湾の総統選は、1996年に始まり、今年で7回目を迎える。そのうち、中国が望まない候補の当選は、1996年の李登輝、2000年と2004年の陳水扁、そして2016年の蔡英文と、4回を数えている。そのつど、中国の圧力の強化や武力介入を心配する声も上がったが、民主化と本土化へ進んでいく台湾の現状を変えることはできなかった。

 中国よりもはるかに小さな台湾は、世界の超大国の圧力に負けず、民主選挙で自らのリーダーを選び続けている。それはつまり、中国の台湾政策が20年以上にわたって成功していない、ということを意味しているのだが、そのことは虚構のペンキで塗り込まれて見えないようになっているのだ。

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