Washington Files

2020年2月13日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

“unifier”は誰か

 こうしたことから、前回2016年大統領選でトランプ当選の重要なカギのひとつとなったペンシルバニア州の代表紙フィラデルフィア・インクアイアラー紙は11日、最年少で「同性愛」を公表しているブティジェッジ氏、「民主社会主義者」を自認するサンダース両候補が首位争いを演じ始めた現状を踏まえ「パニック状態の民主党員たちが億万長者ブルームバーグ氏に殺到」と題するベテラン編集委員による論評を掲載した。そして以下のように報じた:

 「最近までバイデン支持だった地方銀行役員のジーナ・セクレッキー女史が告白するように、バイデン候補は緒戦でつまずき、サンダーズ、ウォーレン両候補のような急進左派ではトランプを打ち負かせないとみる有権者が急に増え始めた。ジーナは『ここにきてブルームバーグの存在を知った。彼は銃規制を明確に支持し、威厳、感性、経験もあり、私の支持する政策とも一致するし、彼ならトランプを十分倒せる』と語っている……彼女一人ではなく、最新のキニピアック大学全米有権者調査(前掲)も同様傾向を示している。

 政治的にレッド(共和党シンボル・カラー)とブルー(民主党)が交差するフィラデルフィア近郊をトライブしてみると一目瞭然、各家庭の庭先に『ブルームバーグ支持』看板が急に増え始めており、Whole Foods(新鮮さで全米に人気の高い高級食料・八百屋チェーン)でも彼の話題が最新トピックになってきつつある。所得格差是正などで左傾化しつつある政党の中で、かつて共和党に属し、ジョージ・W・ブッシュを支持したこともあり、全米第8位の富豪の彼が、フロントランナーのサンダースの対抗馬として突然トップに浮上しつつあることは確かだ」

 そのブルームバーグ候補は、カリフォルニア、テキサスなどの大票田州を含む14州で3月3日(火)に予備選、党員集会が同日実施されるスパー・チューズデーを皮切りに本格参戦するが、すでにTVコマーシャルなどを通じ、各州で着々と地盤固めに乗り出している。

 連邦議会を中心とした政界情報ウェブサイトThe Hillによると、同氏はすでに他のどの候補よりも多い3億ドル以上をTVコマーシャルにつぎ込んできたほか、アイオワ州党員集会の翌日には「スーパー・チュ―ズデーに向けてその倍以上の宣伝費を投じ攻勢をかける」と宣言、さらに民主党候補指名を獲得した場合、11月本戦までに、トランプ陣営も手が届かない5~60億ドルの莫大な資金を注ぎ込む構えを見せているという。

 ここでブルンバーグ氏の略歴に触れておく:

 1942年2月、マサチューセッツ州ブライトン市生まれ。ジョンズホプキンス大卒後、ハーバード大学ビジネス・スクールでMBA取得。大手情報サービス会社ブルームバーグ創設者。実業家。著述家。ニューヨーク市長(連続3期)(2002~2013年)も務めた政治家。2014年、国連事務総長任命により、「都市・気候変動担当国連特使」。2016年大統領選挙への出馬を一時検討したが、断念、同年夏の民主党大会では指名を獲得したヒラリー・クリントン候補への支持を全米に呼びかける熱烈な演説で注目を集める。推定個人資産総額615億ドル(約6兆7650億円)

 一躍脚光を浴び始めた同氏には当初からハンディキャップがある。ひとつは、過去の民主党大統領候補の中でただ一人、緒戦のアイオワ州党員集会、ニューハンプシャー州予備選での洗礼を受けないまま立候補を表明したことだ。全米が最初に注目するこの二つ重要レースに参加しないままホワイトハウスの座にまで上り詰めた大統領は一人もいないというジンクスをどう克服できるか。

 サンダース氏同様、高齢で新鮮さに欠ける点も、ブティジェッジ氏や、ニューヤンプシャー予備選で3位に浮上した女性候補のエミー・クロブシャー上院議員(59)と比べアピール不足は否めない。

 さらに、資金に糸目をつけず「金で選挙を買う候補」(ウォーレン氏の批判)というレッテルを今後、どう払しょくしていくかも今後の課題のひとつになる可能性もある。

 では、逆に強みは何か。

 第一は何と言っても、他の候補そしてトランプ陣営も羨む絶大な資金力と、全米各州にすでに支部を設置し、1000人規模の有能スタッフの布陣を敷いたといわれる抜群の組織力だ。選挙組織は今後さらに強化されるという。

 第二は、全米最大都市ニューヨーク市長としての実績だ。9・11テロ以後の混乱した都市を再生させたほか、犯罪、交通、福祉対策でも高い評価を受け、2010年、市民人気調査では過去30年間の歴代市長の中でトップの座を占めた。

 第三は、穏健、中道の主義と主張を貫き通し、バランス感覚と安定感に定評がある点だ。通商・貿易政策でも、保護主義色を強めつつあるトランプ大統領とは対照的に、市場開放、自由貿易主義を主張している点も、ウォール街のみならず、全米の企業経営者たちの共感を得る部分が多い。

 第四は、サンダース、ブティジェッジ、クロブシャー各候補らと比較しても、黒人、ヒスパニック層での人気度が高い点だ。この点、本選となった場合、低支持率に悩むトランプ氏に対しても、大きな強みだ。

 こうした点を踏まえ、ブルームバーグ候補の最大の課題は、いかに今後の予備選、党員集会を勝ち抜き、最終的に7月13日にミルウォーキーで開かれる全国党大会で民主党候補指名を勝ち取るかにかかっている。

 その先駆けとなるのが、3月3日のスーパー・チューズデーだ。もしここで、ブルームバーグ氏が首位に躍り出た場合、その後の指名争いの行方を決定づけるといっても過言ではないだろう。

 一方、トランプ陣営にとっても、現段階での複数の世論調査が示す通り、ブルームバーグ氏は「最も手ごわい相手」であり、不気味な存在となりつつあることはたしかだ。

 なぜなら、与野党間で国論が真っ二つに分裂しかねない状況下で行われる11月選挙では、アメリカをひとつにまとめあげられる“unifier”は誰かが、有権者の最大の関心事となることは必至だからだ。

  
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