世界の地熱発電設備容量1071万5000kW(10年時点)のうち、245万6000kWが富士電機のタービンだ。累計では2割強のシェアだが、「この10年だけでみれば5割近いシェアになっている」と山田氏。西日本技術開発同様、国内での仕事が減るなかでも、海外での仕事の獲得を進めてきた結果だ。
山田氏は地熱発電の長期安定性についても強調する。同社では、79年エルサルバドルに3万5000kWのタービンを納入したが、現在でも稼働を続けている。地熱発電は適切にメンテナンスを続けていけば、寿命は長いということだ。富士電機製のタービンは、インドネシアでのシェアは5割を超えているほか、10年にはニュージーランドのナ・アワ・プルア地熱発電所に、1基の大きさとしては世界最大となる14万kWのタービンを納入している。
日本でも地熱復活の兆し
(出所:「地熱資源開発の最近の動向」 2012年4月17日 資源エネルギー庁)
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そもそも、日本には世界3位の地熱資源量がある。さらには、世界に名だたる開発・運営企業と、タービン企業がある。それにもかかわらず、西日本技術開発や富士電機が海外で仕事を増やしてきたのは、国内に仕事がないからに他ならない。日本では99年、東京電力の八丈島地熱発電所を最後に事業用の新規開発がない。もはや国内にいて事業性の高い地域がないのだ。ただし、自然公園内を除いて……。
実は、日本の地熱資源の約8割は国立公園などの自然公園地域内にある。72年に通産省(当時)と環境庁(同)が既設6つの発電所を除いて、国立公園内には新規の地熱発電所を建設しないという覚書を交わした。これ以降、自然公園内での地熱発電開発はストップした。
前述のとおり、マグマにより熱せられた岩石に地下水が触れてできた、熱水(地熱貯留層)を発電に利用するため、火山活動のある地域に地熱資源は偏在している。こうした地域は、風景地、生物多様性保全の対象として、国立・国定公園に指定されていることが多い。
自然公園は、国が管理する国立公園と、都道府県が管理する国定公園、都道府県立自然公園からなり、その利用や開発は次のような区域設定により制限されている。自然景観の重要度順に「特別保護地区」(植栽、昆虫採集も禁止)、「第1種特別地域」(特別保護地区に準ずる景観)、「第2種特別地域」(農林漁業活動について、調整を図ることが必要な地域)、「第3種特別地域」(通常の農林漁業活動については規制のかからない地域)、「普通地域」(公園区域外との綬働地域)である。
自然公園法を所管する環境省は地熱発電の開発を規制してきたが、再生可能エネルギーへの関心が高まるなかで、その姿勢を変えつつある。まず、10年6月に過去の通知の見直しをすることが閣議決定された。これにより、自然公園内にある地熱貯留層に対して、自然公園外から斜めに井戸を掘る傾斜掘削であれば許可を出す方向への検討がはじまった。傾斜掘削であれば、自然公園内に施設を設置することはないので、環境に対する影響を少なくして開発を行うことができる。
そして、今年3月21日に環境省から新方針が示され、第2種、第3種特別地域について傾斜掘削が正式に可能となり、さらに自然環境の保全と地熱開発の調和が十分に図られる「優良事例」については、傾斜掘削よりコストの安い垂直掘りなど、公園内での開発も認められることになった。
4月9日に開かれた地熱発電事業者向け説明会では、細野豪志環境大臣が「再生可能エネルギーの中で最も潜在的な可能性が高く、コスト面でも有効なのが地熱発電。環境省を規制官庁ではなく、皆さんと一緒に推進していくパートナーとして見てもらいたい」と挨拶。この発言を多くの事業者が期待感を持って受け止めた。ただし、同じ説明会で、環境省の担当者は規制色の強い発言を繰り返しており、垂直掘りが認められる「優良事例」の具体的内容もなかなか示されないことから、環境省の本気度を疑う向きもある。(第2以降は是非本誌でご覧ください)
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