2024年11月22日(金)

ルポ・被災農家の「いま」

2012年6月7日

丹念にいちごの世話をする山中さん

 さらに山中さんは、放射能測定検査の「未検出(ND)」という結果の示し方にも、大きな不満を持った。「未検出(ND)」で済ませず、正確な数値をしっかり示すこと、さらに、沖縄や福岡といった安全な地域のいちごの放射能測定検査の、細かい数値も合わせて示すことが大事だと、強く感じたという。

 「そうすれば、お客様は『福岡と同じ数値だ』と“安全の根拠”を知ることができる。結果として、もし相馬のいちごの数値が福岡よりも高かったとしても、それでいいんだよ。私らは、福岡のいちごのレベルまで持っていくことに励めばいいんだから。遠回りしているようで、それが一番お客様からの信頼を得る近道になると思うんだ」

口コミで直売所の売上は好調

 こうしたなか、一つの希望も見い出した。同園では、いちご狩りのほか、直売所でのいちご販売も行っているのだが、その売上げは好調だったのだ。購入したお客さんが「美味しい」と感じて、それが口コミでつながった。

 「美味しいいちごを作り、それを1年、2年と続けていけば、必ずお客様は『相馬のいちごは大丈夫』と信頼してくれるようになると思った。口に入れるものだから、そのぐらいの時間をかけていかなくちゃいけないと覚悟を決めた」

会社設立と相馬市全体の復興

 取材終盤、山中さんが一つの書類を取り出して見せてくれた。それは会社設立の書類であった。社長は山中さんだ。

 「国の補助が得られたんで、大型のハウスを建てるんだ。津波で農園が全壊した農家に声をかけて、まずは従業員などで働いてもらい、再び自立してもらいたいと思ってさ。2013年シーズンにはハウスの一部で営業を始めるつもりだ」

 すでに全壊した農家の一部は、社員として雇用することが決まった。震災後の山中さんらの頑張りを見て、彼らは再び立ち上がる決心をしたのだ。

 山中さんらの視線の先は、相馬市全体の観光復興に向けられている。


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