2024年4月25日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年5月25日

書簡の「本当の目的」は何か?

 トランプ大統領は一体誰に対して、どのようなメッセージを発信したかについても見てみましょう。

 言うまでもなく、テドロス事務局長を標的にしています。テドロス氏に中国以外の米国を含めた他国を公平に扱うように迫っています。

 前述の「あなたは中国に屈した」は、テドロス事務局長の中国に対する弱腰を批判しています。歴代の大統領の中で最も中国に厳しい大統領だと豪語するトランプ氏は、自分とテドロス氏との対比を鮮明にしました。そうすることで、中国に否定的な約7割の米国民を味方につけようとしました。

 テドロス事務局長に加えて、中国に対しても強いメッセージを発信しています。驚いたことに、書簡には「武漢をロックダウン(都市封鎖)する前に、中国当局は500万人以上の人々が都市から離れるのを許可し、その多くが海外に向かった」と記されています。彼らが世界中に感染を拡大させたという含みを持たせました。

 今回の新型コロナ感染拡大の責任は、テドロス事務局長と中国にあり、彼らは「共犯」であるといいたのです。

 ただ、トランプ大統領は書簡で習主席に対する「個人攻撃」を避けています。「逃げ道」を作ったのでしょう。「中国叩き」は11月3日の投票日までで、それ以降は中国との関係修復に乗り出す構想かもしれません。

 そして看過できない点がもう1点あります。トランプ大統領は書簡の一番最後に、有権者をかなり意識したメッセージを発信しています。「米国の国益に役立ったないWHOに、国民の税金を使って拠出金の支払いを続けるこはできない」と、明記して書簡を終えています。

 現状でのWHO加盟は、「米国第一主義」に反すると言いたいのです。11月3日の投票を控えたトランプ氏は、有権者に「米国の利益を最優先にしてWHOと戦っている」とアピールした訳です。要するに、この書簡は単なる「選挙目的」であると解釈できます。

  
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